(イラスト:西尾 鉄也)
(イラスト:西尾 鉄也)

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前回は、007を初めとするスパイジャンルが隆盛を誇ったのは、冷戦という背景があったから、というお話を伺いました。

押井:だから冷戦終了後の007シリーズは延々と迷走を続けているわけ。もうスパイが活躍する時代じゃないよ。

でも最近でも「キングスマン」(14)がありましたよ。あれもスパイ映画ですよね。

押井:みんな面白いと言うんだけど、僕は全然面白くなかった(笑)。要するに全部パクリなんだもん。本家の007シリーズ自体が、かつてのシリーズのパロディになっちゃってるのに、それのパロディやってどうするんだよ。でも「キングスマン」は、それこそ秘密兵器大会なわけだけど、不思議と女はあまりないんだよね。

最後に王女様とやっちゃって終わりでしたけど……。

押井:ボンドガール的なものは許されない時代になりつつあるから登場させなかったのかもしれないけど、それだけじゃないと思う。「キングスマン」ってなんとなく最初からゲイっぽい匂いがするんだよ。テイラードされたゲイの世界というかね。007はあきらかに男の欲望の結晶。だから「キングスマン」にはボンドガール的なものの存在する余地がないんじゃないかな。ちょこっと出てくるけど、たいした役じゃないじゃん。

007においてボンドガールは重要な要素ですからね。

押井:ジェームズ・ボンドのシリーズでは、誰と戦うか、どんな秘密兵器が出るかと同じぐらい、ボンドガールというのは重要なテーマだった。みんなそれを楽しみにしてたわけじゃん。「次のボンドガールは誰?」というさ。

ボンドガールとは何か?

押井:今回、007シリーズの中から「ロシアより愛をこめて」を選んだのは、ダニエラ・ビアンキが好きだったからという理由もある(笑)。歴代のボンドガールで断トツですよ。ほかのお姉さんは忘れちゃったよ。

彼女はハリウッド映画にはほとんど出てなくて、ヨーロッパ映画に何本か出てるぐらいなんですね。

押井:そうそう。その後ダニエラ・ビアンキが何に出たとか僕も知らなかった。当時は今のようにインターネットはないから、調べようがなかったからね。

 「007 ゴールドフィンガー」(64)も好きで、オナー・ブラックマンというエグいおばさんが出てたじゃん。僕の好みから言えば、本来あっちのおばさんのほうがタイプなんだけど、でもやっぱり007なら金髪のダニエラ・ビアンキだね。すごいインパクトがあったんだよ。

どうしてそこまで押井監督が魅了されているのでしょうか。

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