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(イラスト:西尾 鉄也)

今年最初のお題は「エレキの若大将」(1965)ということですが。

押井:別に「エレキの若大将」じゃなくてもいいんだけどさ。若大将シリーズって基本的にどれもみんな一緒だから。

僕は今回初めてちゃんと見たんですけど、このシリーズは毎回、「加山雄三が星由里子(または酒井和歌子)と恋に落ちてどうのこうの」っていうストーリーなんですか?

押井:同じ同じ。田中邦衛(青大将)が絡んで妨害があって。最後スポーツの大会で優勝してという、まったく同じパターン。だから「水戸黄門」と一緒だよ。というかむしろ、もっと鉄板だね。スポーツが毎回変わるだけ。

役者も同じで同じ話を繰り返してて、毎回見ている人は混乱しないのかなという気がするんですけど(笑)。

押井:だから安心して見られるというやつだよね。結末まで全部わかってるから、スポーツのネタがいつ尽きるかという話。「エレキ」のときはアメラグだっけ。

アメリカンラグビー、って何ですか

そうです。「アメリカンフットボール」じゃなくて「アメリカンラグビー」なんですよね。アメラグなんて当時相当マイナーだったんじゃないですか。

押井:いや、そんなこともないよ。どちらかというと先端のスポーツでかっこいいというイメージじゃなかったかな。ただこの映画での扱いはルールもヘチマもないけどね。なんとなく派手なプレイをして、なんとなく優勝しちゃうという。試合自体の展開はさっぱりわからない。見てる方も、誰もアメラグの細かいルールなんて知らないからさ。

映画の中では、試合の部分はほぼ点数の推移しか映ってないですよね。監督(岩内克己)さんもインタビューで「アメリカン・フットボールはよく知りませんでした」と答えていますし。

押井:そんなもんだよ。ボクシング(「銀座の若大将」、62)とか、柔道(「南太平洋の若大将」、67)のときはわかりやすかったけど。

もう一つ、この作品ではスポーツ以外に「エレキギター」がフィーチャーされています。あの頃はエレキギター人気がすごかったんですよね。

押井:グループサウンズの時代だよ。あの頃、中高生でエレキをやりたくない男の子なんていなかったよ。だけどみんなあきらめるわけ。金もないし、たぶん難しいんだろうなって。でもめげずにやった人間もいっぱいいる。やっぱりエレキギターそのものがギミックとして新鮮でかっこよかったんだよ。それまではギターといったら、オヤジの演歌、古賀政男(昭和の代表的作曲家にしてギタリスト)の世界だったから。

演歌とか流しのイメージだった。

押井:それが突如として世界で一番かっこいい楽器になった。それはエレキギターとアンプの威力。胴がなくてソリッドな形がかっこよかったんだよ。それまでの、いわゆるアコースティックギターは胴があるから、ポロポロやるしかないし指先の超絶技巧しかないわけ。でもエレキを演奏しながらステージで暴れるとかね、腰の位置で弾いたりとかができた。エレキが受けたのは日本だけじゃなくてそういう時代だった。ジェフ・ベックとかさ。そういう意味で若大将が持てる最新のギミックがエレキギターだったんだよね。

どこにも存在しない「理想の大学生活」

押井:「エレキの若大将」は、エレキギターの勝ち抜き番組の演奏中に突然アンプが故障しちゃって、もちろんそれは青大将の仕業なんだけど、本来は演奏のコンクールなのに若大将が一人でジャカジャカ鳴らしながら突然歌を歌い出す。でもそれが大ウケしちゃって優勝するってパターン。青大将からすると妨害には成功したんだけど、かえって敵を利してしまったというさ。

青大将という役どころは敵のはずですよね。でも若大将とくっついたり離れたりして、敵か味方かよくわからないです。

押井:そうそう。最後も、青大将の自己犠牲でアメフトの試合に優勝するしね。「俺を踏んづけて行け」って。青大将というのは、しょせん小悪党だからね。金を持ってるだけで、若大将のライバルたり得ないんだよ。星由里子がそっちに行かないのはわかりきってる。ストーリーを転がすための存在。

若大将の存在を揺るがすほどではないから、観客は安心して見ていられるわけですね。

押井:その辺も含めて「どこにもない青春」を満喫する映画なんだよ。だいたいあんな大学ないって。あいつらいつ勉強して、いつ単位取ってるんだよ(笑)。

確かに、授業風景はまったくありませんでした(笑)。

押井:なぜかといったら授業なんて誰も見たくないからだよ。授業もゼミもない。あるのは停学だけ(笑)。けんかして毎回必ず停学になるわけだ。その前に部活の合宿とか、放課後の練習とか、パーティーがあったりとか。当時の本当の大学生がそうだったかは別として、「こうだったらいいな」という理想の大学生の姿を綿々とシリーズで描いたわけだよね。楽しい学生生活、キャンパスライフ。

そういう内容の映画を、当時どういう客層が見ていたんでしょうか? 当の大学生とか?