大型開発プロジェクトで変貌しつつある東京。その注目エリアをピックアップし、地域の歴史や地形と絡ませながら紹介していく連載です。現地に残る史跡、旧跡のルポも交えて構成。歴史好きの人のための歴史散歩企画としても楽しめます。変貌する「ネオ東京」の“来し方行く末”を鳥瞰(ちょうかん)しつつ、歴史的、地勢的特性を浮き彫りにします。
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アーバン・コアと歩行者デッキとはなにか
前回は戦後の渋谷の移り変わりと再開発の過程を追ってきた。だが、分断された渋谷がどうなるのかが、まだ見えてこなかった。逆に工事が進む過程で、渋谷はさらに“迷宮化”しているようにも見えた。そこに登場してくるのが「アーバン・コア」だ。
アーバン・コアは渋谷駅周辺の再開発について回る言葉だが、これがなかなかピンとこない。
簡単にいえば、垂直方向の動線がアーバン・コア、水平方向の動線が歩行者デッキ(これはまあ言葉のまんま)だ。
アーバン・コアは2012年の資料によると、(渋谷マークシティの入り口を含めると)全部で9個設置されることになっている。
渋谷の再開発では各所にアーバン・コアが設置される。(図:渋谷区 渋谷駅中心地区基盤整備方針 平成24年10月)
これらのアーバン・コア内に設置されたエスカレーターやエレベーターで地下と地上を結ぶ。
渋谷駅周辺の再開発で利用されているアーバンコアは3つ。1つは渋谷ヒカリエの入り口にあるアーバン・コア。地下3階の東急東横線と東京メトロ副都心線の改札フロアからエスカレーターやエレベーターで上層階につながるのがそれで、楕円形のデザインになっている。
渋谷ヒカリエのアーバン・コア(写真右奥、渋谷ヒカリエ前面の半円部分)と歩行者デッキ(写真左手前)(写真:荻窪圭)
渋谷ヒカリエのアーバン・コアを上から眺めたところ。こんな吹き抜けのエスカレーターホールが縦の動線になる(写真:荻窪圭)
地下の東急東横線・東京メトロ副都心線の改札口を出たらアーバン・コアのエスカレーターで上に登るとそのまま渋谷ヒカリエの入り口だ。渋谷ヒカリエの「アーバン・コア」の2階部分は渋谷駅へ通じる歩行者デッキとつながっている。
もう1つの「アーバン・コア」は2018年に開業した渋谷ストリームの入り口、稲荷橋広場脇に造られている。
その渋谷ストリーム。思えば「渋谷川」から「渋谷ストリーム」へ。「川」が「ストリーム」になっただけでえらい違いである。
2019年の渋谷川と稲荷橋広場。稲荷橋より下流の渋谷川を覆うように稲荷橋広場が造られた(写真:荻窪圭)
そしてこれが渋谷ストリームの前にあるアーバン・コア。歩行者デッキから見た姿である。
歩行者デッキから渋谷ストリームへ直接行ける。その入り口がアーバン・コアになっていて、ここから下層へ移動できる(写真:荻窪圭)
渋谷ストリームのアーバン・コアを上から見たところ(写真:荻窪圭)
ここは2階から地下までをエスカレーターで結んでいる。2階は国道246号と首都高速3号線に上下から挟まれた巨大な歩道橋に接続している。これが歩行者デッキというわけだ。
以前は歩行者デッキと渋谷ストリームのアーバン・コアとが接続しているだけだったが、19年9月にはオープン前の「渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(東棟)」内の通路と歩行者デッキがつながった。これで渋谷駅、渋谷スクランブルスクエア東棟、渋谷ストリーム、渋谷ヒカリエを地下に下りることなく行き来できるようになった。11月の渋谷スクランブルスクエア東棟の本格オープン時には動線がより改善される。
以前、JRの渋谷駅から渋谷ストリーム方面や渋谷ストリームと、明治通りを挟んだ向かい側にある渋谷警察署(さらには金王八幡宮)方面に行くのはとても大変だった。JRの駅改札からいったん地上に出て(または下りて)、歩道橋に上り、国道246号を渡ってまた階段を下りていく必要があったわけだが、近い将来、その必要がまったくなくなるわけである。国道246号線と首都高速3号による分断はこれである程度解消される。
次にできるのは渋谷スクランブルスクエアだ
アーバン・コアと歩行者デッキの効力が見え始めるのは、19年11月に渋谷スクランブルスクエア東棟がオープンしたときだろう。渋谷ヒカリエが12年、渋谷ストリームが18年、そして西口の渋谷フクラスと東口の渋谷スクランブルスクエア東棟が19年と順番に開発は進んでいくのだ。
宮益坂下交差点から南側を見た渋谷駅。左手の高層ビルが渋谷ヒカリエ、右がほぼ完成した渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)。手前下に見えているのは20年1月開業予定の新しい東京メトロ銀座線渋谷駅。渋谷スクランブルスクエア東棟が超高層ビルなのがわかる(写真:荻窪圭)
渋谷スクランブルスクエア東棟は高さ約230メートルの超高層ビルで東急東横線渋谷駅の跡地に建設中のビル。
これが完成すると、渋谷スクランブルスクエア東棟と隣接する渋谷ストリームがつながる。これで改札を出た後、屋外に出ることなく、雨にぬれることなく、階段を上ることなくそのまま渋谷ストリームと往き来できる。さらに歩行者デッキを介して渋谷警察署方面にもそのまま行ける。国道246号と首都高速3号線による分断が解消されるはずだ。
右に見える建物が11月に開業する渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)。ここから左にある渋谷ストリームへ首都高の下をくぐって直結される。渋谷の新しい動線になりそうだ(写真:荻窪圭)
渋谷スクランブルスクエア東棟内にも地上3階(東京メトロ銀座線の改札口がある)から地下2階(東急東横線・東京メトロ副都心線の改札口横)まで縦に貫くアーバン・コアが作られるので、移動がスムーズになる。このアーバン・コアはすでに一部の利用が始まっている。
個人的な注目点は屋上部分。渋谷スクランブルスクエアは地下2階から地上14階までは商業施設で、17~45階はオフィスフロアだが、最上部は展望施設となる。約230メートルの高さの広大な屋上空間が出現するのである。渋谷の谷地形が作る約20メートルの高低差なんて一瞬で吹っ飛ぶ高さである。ここから見たら細かい凹凸がある東京の地形も真っ平らに見えるんだろうなと思いつつ、一度上がってみたい気持ちにもなる。
渋谷スクランブルスクエア第I期(東棟)の屋上には広大な屋上庭園が造られる(イラスト:渋谷駅街区共同ビル事業者)
続いて渋谷駅の西側。東急プラザ渋谷の跡地を含むエリアに建てられる渋谷フクラスは19年10月に竣工する予定だ(新生「東急プラザ渋谷」は12月に開業)。それに併せて、渋谷駅西南にある歩道橋も歩行者デッキとして造り直されている。
渋谷駅周辺の工事がすべて完了すれば、渋谷駅から歩行者デッキを伝って地上に下りずに直接渋谷フクラスへとつながる予定だ。
旧歩道橋を壊して建設中の歩行者デッキ。渋谷フクラス(右奥のビル)と直接接続されるのがわかる(写真:荻窪圭)
桜丘口の再開発で渋谷駅南側の分断が解ける?
残るは桜丘口地区。
ここは19年1月に閉鎖されたばかりのエリアで19年9月現在、地上解体工事はおおむね完了している。
桜丘口地区は国道246号と首都高速3号線により、良く言えば昭和の街が残った、悪く言えば開発から取り残されたエリア。防空壕(ごう)の跡が残っていたり、ジュネス順心という戦前のアパート建築(築約80年)が残っていたりするなど異彩を放っていたエリアだ。
それが19年1月7日に街区丸ごと閉鎖されたのだ。その前日に最後のチャンスと見に行ってしまった。
19年1月、桜丘口地区は街区ごと閉鎖されて、開発が始まった。赤い線が廃止される道路。開発区域は赤い点線で囲まれたピンクの地域だ(図:渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合)
閉鎖直前の桜丘口地区。左手に見えるのが「ジュネス順心」。右側にJRの線路がある(写真:荻窪圭)
閉鎖直前の桜丘口地区。左手奥にJRの線路がある。右手の崖に一部穴を塞いだような跡がある。これは防空壕(ごう)跡だという(写真:荻窪圭)
このエリア約2.6ヘクタールが丸ごと再開発される。
最も分断の影響を強く受けていた桜丘口地区の分断は解消されるのか。そうなれば、ここが一番恩恵を受けるエリアかもしれない。
まず歩行者デッキを介して、渋谷駅や渋谷フクラスと空中でつながりる。さらに、国道246号の地下でもつながることで、歩道橋を上ったり下りたりせず、地上に下りることもなく行き来が可能になる。
現在、渋谷駅南側にある渋谷ストリーム側と桜丘口地区はJRの線路で東西に分断されている。この周辺でJR線の東側と西側を行き来できるのは、地表にある渋谷駅南口と、そこから500m以上南にある並木橋の陸橋のみ。その分断を解消すべく、現在のJR新南改札口辺りに線路をまたぐ歩行者デッキ「東西通路(南)」(仮称)ができる。完全に分断されていた東西を結びつける歩行者デッキの誕生は大きい。
この歩行者デッキとは別に、JR渋谷駅の南側には「東西通路(北)」(仮称)と新しいJRの改札口が設けられる予定なのだ。この周辺の現況(19年8月現在)を360度で見られるカメラ「THETA(シータ)」で撮影してみた。
19年8月現在の渋谷駅桜丘口周辺(360度画像)。更地になっているのが桜丘口地区。首都高速道路を挟んで、桜丘口地区側の高層ビルが渋谷ストリーム。その左、首都高の向こう側に見えるのが渋谷スクランブルスクエア東棟。写っている歩道橋も歩行者デッキとして整備され、各地区とつながるはず(画像右下、一番右のアイコンをクリックすると、全画面表示されます)(写真:荻窪圭)
JRをまたぐ2つの歩行者デッキと新しいJR渋谷駅南側の改札口ができるのはもうちょっと先になるが、渋谷ストリームと桜丘口地区がJRをまたいでつながるわけだ。東急の報道向け資料によるとこんな感じになるそうだ。
桜丘口地区から歩行デッキを通って渋谷駅の南口(計画中)に行けるだけでなく、JRをまたぐ通路によって、渋谷ストリーム側(東口側)に移動できるようになる(図:東急株式会社)
すべてが完成するのは2027年度。その時どうなるか
で、最終的には、20年3月に閉店する東急百貨店東横店の西館・南館も取り壊され、西口には地下にタクシープール、さらにアーバン・コアも作られるそうである。
かくして、6つに分断されていた渋谷駅周辺が歩行者デッキでつながり、歩行者デッキと地下はアーバン・コアで接続されるのだが、それらすべてが完成するのはいつ?
2027年度の予定である。
それで複雑だった渋谷駅周辺はわかりやすくなるのか、渋谷の谷地形らしさは残るのか、物理的に京王井の頭線渋谷駅と東急東横線渋谷駅はかなり離れてしまったわけだがその乗り換えの不便さはどのくらい解消されるのか、それを実際に体感できるのはもうちょっと先のことになりそうである。
それまでは、渋谷ヒカリエ11階のスカイロビーに置いてあるミニチュア模型で想像しましょう。
渋谷ヒカリエ11階に展示されている27年頃の渋谷駅周辺のミニチュア模型を道玄坂側から撮影。駅をハチ公口側から見ている。最終的にはハチ公口前の広場も大きく変化する予定だ(写真:荻窪圭)
2027年……というとかなり先のようだが、渋谷駅の機能を維持しつつ、駅周を辺丸ごと再開発しようとすると、それなりの期間が必要なのはわかる。その頃には渋谷が谷地形だったことすら気づかない人も出そうで東京の地形好きとしては寂しいところはあるが(何しろ、谷底にある地上に下りなくても各方面に行けちゃうのだ)、江戸時代から、常に変化し続けるのが東京の常であり、変化自体を楽しむべきなのじゃないかと思う今日このごろである。
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