人気を博した懐かしの企画について、執筆者本人に舞台裏を聞く本コラム。第6回は「日経ビジネス電子版(旧日経ビジネスオンライン)」に2017年3月21日に公開された「電車で異常にもたれかかってくる人の末路」だ。これも電車の車内ではよく目にする光景だ。我慢できなくなった人が肩で押し返す様子を目撃したことがある人も少なくないだろう。筆者の鈴木信行副編集長とともに、内容を振り返る。
(聞き手は山崎良兵)
「あの企画の舞台裏」第6回は、2017年3月21日に公開された「電車で異常にもたれかかってくる人の末路」です。これまた、電車で通勤する人の多くが一度は、不快な思いをしたことがある話だと思いますが。
筆者:今、通勤電車の中にいてスマホでこの記事を見ている方はぜひ、横の人にもたれかかって寝ている人を見ながら読むと、臨場感倍増です。
電車の車内では異常にもたれかかってくる人にしばしば遭遇する(写真:PIXTA)
前回(「なぜ電車で『中ほど』まで進まないのかの舞台裏」)から持ち越した「電車で異常にもたれかかってくる人」は同窓会に行くか行かないかも興味深いところ。まずは記事を改めて振り返りましょう。2017年3月21日公開「電車で異常にもたれかかってくる人の末路」です。どうぞ。
電車で異常にもたれかかってくる人の末路
ランスタッド EAP総研の川西由美子所長に聞く
2017年3月21日
世界的にも最悪レベルにあるといわれる日本の通勤ラッシュ。ただでさえストレスフルな環境の不快指数をさらに高めているのが、電車の中での様々なマナー違反だ。日経ビジネスオンラインでは2014年、その代表格として「電車で中ほどまで進まない人々」に着目。心理学のスペシャリスト・川西由美子氏の力を借り、「中ほど」まで進まない人間には“脳の回路”にある種の欠陥があることなどを解明。大きな反響を呼んだ。
だが、電車の中の環境を悪化させている人は、まだまだいる。例えば、「隣の人に異常にもたれかかってくる人」もその一例だ。悪気はないのも、疲れているのも分かる。が、サービス残業が当たり前の日本社会で疲労しているのは皆同じ。どんなに疲れていても姿勢正しく座っている人もいる。電車で異常にもたれかかってくる人の末路について、川西氏に話を聞いた。
(聞き手は鈴木信行)
川西由美子(かわにし・ゆみこ)
オランダに本社を置き、世界39の国と地域に拠点を持つ総合人材サービス企業、ランスタッドのEAP総研所長 兼 ビヘイビアルヘルス(行動健康科学)コンサルタント。臨床心理学と産業組織心理学が専門で、病院内のストレスドックや、企業向けには安全文化や品質向上のコンサルテーションも手がける。海外ではベトナムやインドネシアの企業に対し、組織再編時のチーム力向上講演も行う。小児がんの子どものための活動、認定NPO法人ゴールドリボンネットワーク理事を務める。
というわけで、2014年以来のご登場です。前回は「電車で中ほどまで進まない人」を分析していただきました(「なぜ電車で『中ほど』まで進まないのか~気の利かない人が増えた理由~」)。今回は「電車で異常にもたれかかってくる人」がテーマです。
川西:実は私が「結構もたれかかるタイプ」なんです(笑)。電車で移動する時に座ってしまうと段々眠くなり、時には、右へ左へゆらゆらと、「起き上がりコボシ」のようになってしまい、隣の人に押し返されることもしばしばです。もたれないようにしてはいるのですが。気が付くと目的地、ということもよくあります。
どうなんでしょう。「電車で中ほどまで進まない人」については、「“脳の回路”にある種の欠陥があり、気を利かせる力が低い」などの仮説が並び、「そういう人は厳しい企業社会で生き残るのは難しい」との読後感を読者に残しました。同様に、電車で異常にもたれかかる人も、「体力・精神面で、企業戦争を生き抜くためのたくましさがない人材」のような気がするんですが。ご本人を目の前にしてなんですが。
川西:私は必ずしもそうは思いません。むしろ電車の中で色々考え事をしながら起きている人より、厳しい企業社会に適応し、新しい発想やアイデアが出やすい人ではないかと考えています。
ついに解明、電車でもたれかかってくるメカニズム
えええ。公衆の面前で前後不覚に陥るのに?
川西:まず、なぜ電車で座ると横の人にもたれかかるほど寝てしまう人がいるのか、脳のメカニズムの観点から説明します。生きている人間の体の中には、細胞活動に伴う微弱電流が流れています。脳細胞の電気的活動を記録したのが脳波です。
波の形になっていますよね。
川西:そうです。極めて簡単に言うと、脳波は起きている時は早く、眠る時は遅くなります。起きている時はベータ波と呼ばれる波が主流で、1秒間に13回以上振動します(13Hz以上)。目を閉じるとアルファ波(8~13Hz)、眠るとシータ波(4~8Hz)が現れ、深い睡眠に入るとデルタ波(4Hz以下)が強く見られるようになります。
なるほど。寝ると脳波は遅くなる、と。
川西:一方で、人間の脳には「同調作用」というものがあります。
えーと「ガタンゴトン、ガタンゴトン…」と、割合ゆっくりしたリズムだから1秒だと2回? 起きている時の脳波は1秒に13回だったから、電車の揺れに同調するとなると脳波も13Hzからぐぅっと下がってくる?
川西:そうです。健康な人は電車で座り、目をつぶると、脳波はベータ波からアルファ波、シータ波に切り替わり、どんどん眠くなる。電車で横の人にもたれかかるほど寝てしまう人は、その下のデルタ波が現れているはずです。シータ波が出て以降の状態を「ノンレム睡眠」と言って、人体の25%のエネルギーを使う脳を休息させる最大のチャンスとなります。
そこまで深い睡眠状態に入っているからこそ、「隣の人に異常にもたれかかってくる人」は、ちょっとくらい肩で小突いても、すぐに再びもたれてくるんですね。
川西:本当に深い睡眠状態に入ると、小突いたぐらいでは起きませんから。
飛行機や新幹線など長時間移動ならともかく、自分は在来線で座ってもとてもそんな状態になりませんが。
意外!もたれかかってくる人は“できる人材”
川西:それは脳と体がアンバランスだからだと思います。過剰労働で脳はすごく疲れているけど運動不足で体は疲れていない。あるいは「ああでもない、こうでもない」と様々な心配事を考えイライラしていても、脳波はシータ波まで下がりません。
「アマゾンの販売が伸びない。売れない本を作った人間の末路はどんな破滅が待ち受けているのか」などと考えていてはダメ、と。
川西:重要なのは、先ほどお話しした通り、たとえ短時間でもノンレム睡眠を取れれば、疲れた脳が少なからず回復することです。つまり、電車の移動時間などで小まめにノンレム睡眠を確保できる人は、常に仕事にリフレッシュした脳で臨める可能性が高い。
ということは、電車でもたれかかる人の末路は、企業社会で落ちこぼれるどころか…。
川西:次々に成果を上げる「できる人材」になる素養がある、と言えるかもしれません。
これは意外…。精神力、体幹共に弱い「だらしない人」かと思っていました…。
川西:むしろ逆でしょう。電車でぐっすり眠れる人は、しっかり仕事もやりつつ、普段から体を動かし前向きな人生を送っている人である可能性が高いと思います。青年期から文武両道を実践し、自分に厳しく技術や知識、気力を磨いてきた人のような気がします。
そうでしたか。
川西:もっとも、本当に脳をリセットするためには、短い時間、ノンレム睡眠を取るだけでは足りません。健康な人は眠りに入ると、すぐに深いノンレム睡眠に入りますが、1時間もすると眠りは浅くなり、90分から100分後には、体は寝ているが脳は起きている「レム睡眠」という状態に10~15分ほど入ります。このレム睡眠の時に、脳は要る記憶と要らない記憶を振り分ける「情報処理」を進めます。
とするとできれば、2時間ぐらいは電車の中でもたれかかるのが理想と。
川西:理想は6時間ですが、短時間でもノンレムに入らないよりは入った方がいいのは事実です。
そうなってくると「電車の中でもたれかかる人」より、「電車の中で気を張り詰めている人」の末路の方が気になってきました。健康な人同様に、リラックスしやすい脳に戻るにはどうすればいいのでしょう。
川西:米国では短い間隔で点滅する光を見つめて脳を同調させることで、脳波の変化を健全な状況に導くセラピーが存在します。ただそれは、戦争経験者などの強烈なトラウマを解消するための治療法で、普通の人にはお勧めできません。やはり最もいいのは、体と脳のバランスを整えることです。今のビジネスパーソンは、頭脳労働をしている割に体が疲れていません。運動である程度自分の体を追い込み、心身ともにバランスよく疲れていれば、リラックスすべき時にリラックスできるようになります。
なるほど。
オフィスでノンレムの“大きいお友達”は話が別
川西:ただ、誤解なきよう言っておくと、電車の中でもたれかかってくる全ての人が、「脳の回復が早い有望人材」ではなく、例外もあります。例えば昼休みならまだしも、会議などで特に昼食後、居眠りしている社員がいますよね。
どこの会社にも、昼間からがっつりノンレム睡眠に入っている“大きいお友達”はいます。
川西:電車の中と違って、ああいう“寝てはいけない時”に寝てしまうというのは、やはりそれはそれで健康な状態ではないと思います。睡眠障害などで夜、しっかり眠れていない可能性が高いですから。それに、体と脳のバランスを取るには、しっかり運動し、夜、良質な睡眠を取るのが一番です。ただ今はそれがしたくてもできない人も多いですから、それを電車の中などで補うといいのでは、という話です。あと、お酒を飲んで、電車でもたれかかってくる人もダメだと思います。
そういう殿方はたくさんいますけど、あれは脳のリフレッシュにつながらない、と。
川西:全くつながりません。適量以上のお酒を飲むと、人間は覚醒中枢と睡眠中枢が麻痺します。覚醒中枢が麻痺すると、当然のことながら起きていられなくなり、電車でもたれかかるようになります。
ならばノンレムに入っているのでは? あ、そうか、睡眠中枢も麻痺してるのか。
川西:そう、だから起きられず隣の人にもたれかかるけれど、浅い眠りが続くことになります。脳のリセットなどにはつながりません。そこから先は2つのパターンがあります。1つは、覚醒中枢が睡眠中枢より早く回復する場合です。
覚醒中枢が回復するのだから目が覚めます。
川西:でも、それまで眠りは浅いですから目覚めは爽快とは言えず、かといってもう少し寝ようにも眠れない。
京王線在住者の恐怖「次は~高尾~」の真実
覚醒神経が回復しちゃって、一方で睡眠神経がまだ麻痺していますからね。二日酔いでそういう時、ありますよね。本当につらい。
川西:一方、覚醒中枢よりも睡眠中枢が先に回復する場合もあります。
ええと、覚醒中枢は覚めてないから起きられない上に、睡眠中枢が回復したから…。
川西:異常なほど眠ってしまいます。
なるほど。お酒を飲んで24時間以上眠ってしまったり、京王線で高尾まで乗り過ごして行ってしまったりする人はそういう人なんですね。電車で異常にもたれかかる人が意外に企業社会で見どころがあるのは事実でも、高尾まで行く人がそうとは限らないわけですか。
なるほど、これは意外でした。川西さんの話が的を射ていて、なおかつ書籍『同窓会に行けない症候群』の見立てが正しいとすれば、「電車で異常にもたれかかってくる人」はむしろ同窓会に行けちゃいますね。
筆者:そういうことになります。飲み会の後、電車で死んだように寝ている人たちは違うでしょうけど。あともう一つ、電車で異常にもたれかかってくる人は、副交感神経の発達したどっしりした人格である可能性も高いですから、その意味でも、同窓会に出る可能性が高いです。
いい意味で周りを気にしない、と。
筆者:そう。書籍『同窓会に行けない症候群』では、「ちびまる子ちゃん」の登場人物を1人1人、同窓会に来るか来ないかプロファイリングしましたよね。
はい。読みました。
筆者:その中に環境がどう変わろうとも同窓会に来る確率が高い人物を2人選びました。1人は丸尾君。もう1人は…。
山田君です。
筆者:「電車で異常にもたれかかって、なおかつ元気に同窓会に出てくる人」の一つのイメージは山田君ではないでしょうか。
『同窓会に行けない症候群』いよいよ発売!
日経ビジネスから
『同窓会に行けない症候群』
を刊行しました!
2017年『宝くじで1億円当たった人の末路』がシリーズ18万部のベストセラーになった著者の2年ぶりの最新作! テーマは「同窓会」です。
同窓会という言葉を聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?
「勉強が得意だった学級委員長」「腕っぷしの強い番長格」
「運動神経にたけた人気者」「アイドルだったあの子」……。
懐かしいたくさんの同窓生の顔とともに、
「体育祭」「文化祭」「修学旅行」「恋愛」などの
甘酸っぱい思い出が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
あいつ、今どうしてるんだろう?
昭和の時代までは、多くの人がこぞって参加していた同窓会ですが、
平成の30年間で、驚くほど様変わりしています。
「大勢が集まる同窓会にはもう参加したくない」
そう考える人が大幅に増えているのです。
なぜ今になって同窓会に行かない人が増えているのか──。
本書はこの“謎”に深く切り込み、平成30年間の企業文化や社会構造の変化を分析することで、裏側にある理由に迫ります。
「出世できなかった」「起業に失敗した」「好きを仕事にできなかった」……。
それぞれの事情を、多角的に考察し、「小学生時代にモテた人」「一念発起して起業した人」など様々な人生の末路にも迫ります。
「ベストな人生とは何か」「幸せな生き方とは何か」
自分やクラスメートの人生を考えながら、この本を読めば、生きるための何がしかのヒントがきっと見つかるはずです。
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