日経ビジネス、同電子版(旧日経ビジネスオンライン)で人気を博した懐かしの企画について、執筆者本人に舞台裏を聞く本コラム。第4回は日経ビジネス1995年9月11日号に掲載された「リカちゃん、中国で“一家離散”か」だ。
鄧小平指導体制による「改革開放」政策の成果が出始め、巨大市場を育み始めた当時の中国。その商機を見逃すまいと多くの日本企業が大陸に進出した。が、そこは中国。商習慣や規制など様々な障害が立ち塞がる中で、日本を代表するキャラクターが危機的状況に置かれていたことはあまり知られていない。筆者の鈴木信行副編集長とともに、内容を振り返る。
(聞き手は山崎 良兵)
「リカちゃん」シリーズの人気は今も続く! 写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ
「あの企画の舞台裏」第4回の題材は、「日経ビジネス」1995年9月11日号に掲載された「リカちゃん、中国で“一家離散”か」です。怪しいタイトルな上、随分古い記事ですが、本当に「日経ビジネス」に掲載されたんですか?
筆者:はい。バックナンバーに間違いなく載っています。
では、「日経ビジネス」1995年9月11日号に掲載された「リカちゃん、中国で“一家離散”か」です。どうぞ。怪しいなあ……。
「リカちゃん、中国で“一家離散”か」
「日経ビジネス」(1995年9月11日号)
(書き手は鈴木信行)
12億の人口を抱える中国は、子供の数も半端ではない。少産化に悩む日本の玩具メーカーにとっては宝の山だが、一筋縄にいかないのが中国。1993年暮れに進出したタカラは早くも難題にぶつかっている。
同社は現在、上海や北京、天津など7都市で人形「ジェニー」を販売している。累積販売個数は約5万個。徐々に知名度も高まってはいる。
しかしタカラと言えば「リカちゃん」。本来ならリカちゃんこそ中国投入商品第1号になるはずだった。ジェニーを先に売り出したのは事情があったからだ。
なぜリカちゃんではなくジェニーが先陣なのか
一人っ子政策の中国では, 7人きょうだいのリカちゃんは受けないというのである。リカちゃんはスチュワーデスの姉リエ、双子の妹ミキとマキ、三つ子のカコ、ミク、ゲンと6人のきょうだいがいる。
リカちゃんが売れるときょうだいも売れるのがこの商品のうまみだ。しかし中国の子供たちにはきょうだいという概念が薄く、この手法が通用しないという。
しかも、外国製品には厳しい中国。同国では“存在し得ない”7人きょうだいの人形など売れば当局に目をつけられる危険性もある。結局、選ばれたのが設定上、「天涯孤独」のジェニーだったというわけだ。
とはいえ同社も中国攻略にリカちゃんは不可欠とみており、場合によっては「一人っ子」の設定で単独中国に渡る可能性もある。誕生以来27 年。円満なリカちゃん一家の「離散」の恐れも出てきた。
これ、よく掲載されましたね(笑)。結局、どこまでが取材によるファクトで、どこからが個人的な読み筋なんですか。ファクトとして自信があるのはどこまで。
筆者:「累積販売個数約5万個」くらいまで。
すごい前の方じゃないですか(笑)。
筆者:それは冗談で、報道内容には自信を持っています。
いかにも「北京発街角リポート」っぽいデザインになっていますけど、現地で取材されたんですか。
筆者:いえ、確か当時は福島県に「リカちゃんキャッスル」が完成して間もない頃で、その見学ツアーがあってそこに参加して、工場長か誰かから聞いた話が核です。
なら「福島発工場リポート」じゃないですか(笑)。そもそもジェニーは、父は映画のプロデューサー、母はデザイナーという設定で、天涯孤独じゃないのでは。
筆者:少なくとも当時、親兄弟の商品は展開していなかったはずです。
ただ、話自体は興味深い気もします。中国は既に一人っ子政策(独生子女政策)を転換していますよね。今は2人目を産むことが推奨されています(開放二胎政策)。そうなると、こうした「多兄弟設定型の玩具市場」にもこれから追い風が吹いたりするんですかね。
一人っ子政策転換=リカちゃん大躍進、とはならない恐れ
筆者:それについては複雑らしい。まず、子供に人形を買うのは親ですが、今の親の多くは日本同様、子供をたくさん産みたがらない。今、子供を産む世代は、それこそ一人っ子政策で1980~90年代に生まれた「小皇帝」が中心で、甘やかされて育っているから積極的に苦労を背負い込もうとしないらしい。教育費を中心とする養育費も高騰しているから、一人っ子政策が廃止されても子供は1人でいいという人もいる。そのため、兄弟が何人もいる設定の玩具を子供にうかつに買い与えて「私も弟や妹がほしい」などと言い出されたら面倒だと考える人もいるらしい。
なるほど。親的にはジェニーの方が都合がいい可能性がある、と。
筆者:一方で子供たちも、多兄弟設定の玩具に強い関心を持たない可能性があります。今、社会問題になりつつあるのが長男・長女による弟や妹への虐待(二胎悲劇)で、例えば、8歳の長男が2歳の妹を外に連れ出して放置したり、4歳の長女が生後2カ月の弟をベランダから落としたり(弟は死亡)する事件が起きています。虐待ではないが、「2人目を産んだら自殺する」と親を脅す子供もいるという話さえあります。
弟や妹に親の愛情が奪われるのが嫌だと。一人っ子政策がなくなっても「多兄弟設定型の玩具」が売れるとは限らない、というわけですか。子供的にもジェニーがいい、と。
筆者:一世代前の中国では、子供が複数いる人は、同窓会でも羨ましがられたらしいけど。
同窓会!?
筆者:一人っ子政策の時代に2人目を産むためには、張芸謀(チャン・イーモウ)監督みたいに「超生罰金」という罰金を支払うとか、海外で産むとか限られた方法しかなくて、一部の人にしかできないことだった。「超生遊撃隊」といって当局に見つからないように各地を転々としながら子供を産む方法もあったが、これでは2人目以降の子供が戸籍をもらえない。だから、ある意味で、当時の子だくさんは成功者の象徴だったそうです。
へー。
中国にもある「同窓会行けない症候群」
筆者:でも教育費が高騰し、結婚難の今は、子供、特に男の子が3人でもいようものなら、同窓会に行っても「天不亮」(朝が来ない、親は一生気が休まらないという意味)と陰口をたたかれかねない雰囲気だそうです。
国や文化が違えば「同窓会に行けない症候群」の原因にも違いがあるというわけですか。
筆者:日本の場合は……。
はい。
筆者:……。
続けてくださいよ。
筆者:……。
『同窓会に行けない症候群』いよいよ発売!
日経ビジネスから
『同窓会に行けない症候群』
を刊行しました!
2017年『宝くじで1億円当たった人の末路』がシリーズ18万部のベストセラーになった著者の2年ぶりの最新作! テーマは「同窓会」です。
同窓会という言葉を聞くと、あなたは何を思い浮かべますか?
「勉強が得意だった学級委員長」「腕っぷしの強い番長格」
「運動神経にたけた人気者」「アイドルだったあの子」……。
懐かしいたくさんの同窓生の顔とともに、
「体育祭」「文化祭」「修学旅行」「恋愛」などの
甘酸っぱい思い出が浮かび上がってくるのではないでしょうか。
あいつ、今どうしてるんだろう?
昭和の時代までは、多くの人がこぞって参加していた同窓会ですが、
平成の30年間で、驚くほど様変わりしています。
「大勢が集まる同窓会にはもう参加したくない」
そう考える人が大幅に増えているのです。
なぜ今になって同窓会に行かない人が増えているのか──。
本書はこの“謎”に深く切り込み、平成30年間の企業文化や社会構造の変化を分析することで、裏側にある理由に迫ります。
「出世できなかった」「起業に失敗した」「好きを仕事にできなかった」……。
それぞれの事情を、多角的に考察し、「小学生時代にモテた人」「一念発起して起業した人」など様々な人生の末路にも迫ります。
「ベストな人生とは何か」「幸せな生き方とは何か」
自分やクラスメートの人生を考えながら、この本を読めば、生きるための何がしかのヒントがきっと見つかるはずです。
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