宮崎:半袖シャツを全否定するわけではないし、松屋銀座でも半袖をご用意してはいる。ただし、これは積極的な提案ではない。できればスーツやシャツの素材を工夫して、夏場でもきちんとしたドレスコードにのっとったビジネススタイルをしていただきたいというのが本音です。
半袖シャツは国際交渉では大きなハンディ
宮崎:理由はいくつもあります。まず、日本国内ではよくても、国際社会、特に欧州では、ルール違反の格好をしていると、それだけで「交渉すべき価値ある相手」と見なされないことが多いんです。半袖・ノーネクタイで欧州の要人を空港に出迎えでもしたら相手は「馬鹿にしているのか」と立腹しかねません。それに、半袖シャツのようなアームホールの広い服は、どうしても間が抜けて見える。国際商談の場などでは、第一印象でいかに相手に「自分ができる人物か」を植え付けられるかがその後の交渉の行方を少なからず左右する。半袖を着ることは、交渉に際し自ら大きなハンディを背負うことにほかなりません。
スーパークルービズで多少快適になっても、ビジネスで負けてしまえば何の意味もない、と。
宮崎:信用の向上こそがビジネスファッションの最大の役割なのに、半袖を着てしまえば信用どころか相手を不快にしかねない。それに、半袖シャツの弱点はただ「みっともない」というだけではない。清潔でないことも大きな問題。半袖の上からスーツを着れば、ひじから先が直接スーツの裏地と接触することになる。そんな状態で汗をかけば当然、雑菌が湧きます。
夏場、体臭のケアを心掛けているビジネスパーソンは少なくないが、その原因の1つは半袖シャツにある、と。
宮崎:確実に一因になっています。
ただ、真夏に長袖を着てスーツを羽織り続けていては、熱中症になりかねません。
宮崎:ですから現実的には、通勤スタイルと勤務スタイルを分けるなど、いろいろ工夫をする必要がある。例えば、半袖シャツはNGですが、長袖シャツをロールアップするのはマナー違反ではありません。
だとすれば、通勤やオフィスでの勤務、外回りでの移動の際は、長袖をロールアップし、ノージャケット・ノーネクタイを基本とする。一方、大事なお客様と面会する際はジャケットとネクタイを身に着け、ロールアップを直してスーツの袖からシャツを出す、といった感じでしょうか。
宮崎:それだけでも、ファッションのせいで信用を大きく落とすような事態は確実に減るはずです。
この手の話をしていると、必ず「オレは中身で勝負する。外見なんか気にしない。全く最近の若いもんはちゃらちゃらしやがって」などと主張する人が出てきます。
宮崎:「ボロは着てても心は錦。外見だけ着飾っても、中身がなければ意味がない」。日本人の多くがそんな美意識を持っていることは理解しています。しかし現実問題としてそれでは世界に通用しない。欧米はもちろん新興国でも、国や経済を動かしている層は例外なく国際的なファッションルールを守っている。
彼らの多くは「服装は、家庭や人柄、人生の履歴など、着る人の多くを表すもの」と考えており、初対面の相手を推し量る上で、まずは“まともな服装”をしているかを重視する。中身で勝負するのは一向に構わない。ただビジネス交渉の限られた時間で、自分の中身を相手に正確に伝えるのは難しいでしょう。
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