宮崎:スーツに限って話をすれば、理由はいくつかあると思います。まず、販売員自身がファッションの基本を正しく理解していないケースがあります。また、販売員が正しい知識を持っていても、お客様に遠慮して、適正なサイズを無理にお薦めしないことも多い。なにしろ、9割のお客様はワンサイズ大きめのスーツを買おうと来店されるわけですから、それを間違いだと諭し一回り小さいスーツをお薦めするのは、販売員にとってかなり勇気が必要な行為になる。一つ間違えばせっかく買う気になっているお客様の気分を害し、販売機会を失いかねません。
適正サイズを薦めると売り上げが伸びない
なるほど。正しいファッションの啓発も大事だが、日々の売り上げノルマの達成も販売員さんにとっては重要です。
宮崎:もちろん中には、今話したようなことを理解してくださって「それならジャストサイズのスーツを買ってみよう」と言ってくれるお客様もいる。ただ、それでも油断できません。家に帰って試着した際、奥様が「随分サイズの小さいスーツを買ってきたわね」とダメ出しすることが少なくないからです。最悪の場合、返品やクレームにつながりかねません。
また、日本の男性の場合、時間をかけて服を選ばないことも、多くの人のスーツが体に合わない一因だと思います。本当に自分の体形に合うスーツを選ぶなら、10回は試着する必要があります。
10回?! とても無理です。面倒くさい。
宮崎:そうおっしゃる男性はとても多い。では逆に聞きますが、スーツではなく6万~7万円の家電製品だったらどうですか。
そりゃあ他社製品との性能を比較したり、いろいろな店舗を回って値段を見比べたり慎重に検討してから買います。
宮崎:でしょう。スーツもそれと同じ。会社員の方の場合、入社から定年までの間でおそらく60~100着のスーツを買う。だったら若いうちに正しいスーツの選び方を知っておいた方がいい。100着ずっと間違い続けるのは嫌でしょう。
確かにそうですが、服を買うのに試着を重ねるのを面倒くさいと考える男性は相当多いはず。
宮崎:そうご自身で言う割には今日の服装は悪くはありませんよ。70点はいっている。合格点です。
それは取材だから、採点が甘くなっているだけでは。
宮崎:いやいや、お世辞ではありません。サイズは合っているし、ネクタイにディンプル(結び目の溝)も入っている。80点でもいいかも。減点はワイシャツがスーツの袖から出ていないこと。スーツスタイルの基本の1つは、スーツの袖から1.5cm前後シャツが見えていることです。
それはできない相談です。だって半袖のワイシャツですから。
宮崎:! 半袖?!
クールビズが定着して以来、夏場のワイシャツは半袖、という人は今や多数派のように思いますが、もしかしてこれも国際基準から外れている?
宮崎:大外れです。確かにここ数年、半袖シャツにノーネクタイといういでたちのビジネスパーソンは珍しくなくなった。しかし国際的にはビジネスで半袖のシャツを着用する習慣があるのは日本と米国ぐらいで、欧州のビジネスシーンではあり得ない服装です。
とはいえ、これだけ暑いと、どうにもならないのでは。
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