宮崎:最も顕著なのはサイズ感。多くの人が自分の体形よりワンサイズ大きなスーツを着てしまっています。肩幅が狭いとかお腹が出ているとか自分の体形にコンプレックスを持つ人ほど、それを隠そうと大きめの服を選びがち。だが、そこが根本的な誤解なんです。
本来、スーツというのは、適正なサイズを選びさえすれば、その人の体形の弱点をしっかりカバーしてくれるアイテム。スーツ選び次第で、辛いダイエットなどしなくても、その日から5kg痩せて見せることすら可能になる。逆にサイズが合わないと、ますますコンプレックスに感じている部分が強調されかねません。
裾を長くしても足は長く見えない

1965年北海道生まれ。1989年株式会社松屋入社。96年より紳士服バイヤーとして活躍。大学やビジネススクールでファッションビジネスの講師を務めるほか、セミナー活動なども展開中。著書に『成功する男のファッションの秘訣60』(講談社)など。(写真:鈴木愛子)
例えば。
宮崎:例えばズボンの裾。自分の足が短いのではと気にしている人ほど裾を長くしようとするが、そんなことをすれば足の短さをより際立たせてしまう。本当に足を長く見せたければ、くるぶしぐらいまで裾を上げた方がすっきり見える。にもかかわらず、足を長く見せたいあまり、「忠臣蔵の“殿中でござる”」みたいな人もいます。
忠臣蔵? デンチュウ? ああ、なるほど。確かに「松の廊下」で浅野内匠頭が吉良上野介に斬り付けた時は、相当に裾が長かった気がします。それこそくるぶし程度ならもっとフットワークも軽快で、あるいは討ち損じなかったかも。
宮崎:まあ忠臣蔵は1つの例えですが、そのぐらい、足を長く見せたいなら裾を上げた方がいいという話です。
でも、本当にそうでしょうか。いい年をした会社員のズボンの裾が短いと、子供っぽいというか俗に言う“とっちゃん坊や”みたいになりそうな気がします。実際、出版業界では「夏場は、取材がない日はTシャツにショートパンツ」という出で立ちの者も珍しくありませんが、特に足が長くは見えません。
宮崎:いや裾を上げろと言うのはあくまでスーツの話で、足を露出すればいいという話ではありません。そもそもTシャツにショートパンツなど、国際基準で言えば、ビジネスパーソンとしてあり得ない格好です。
Tシャツと言えば、著書で「40歳を過ぎた人が着るアイテムではない」とも主張されています。
宮崎:Tシャツはスーツとは逆に、体の欠点を全くカバーしてくれないアイテム。ぽっこり出たお腹や貧相な体格などがそのまま出てしまいます。
鍛えていれば? お腹を引き締め、大胸筋をそれなりに鍛えていれば、40歳を超えてなおTシャツが似合う人もいるのでは。
宮崎:ダメです。「いかにも鍛えました」という体形の中高年がTシャツを着ると、“努力の跡”が浮き出て、一層痛々しくなる。「頑張って必死に若作りしている」という印象がにじみ出て、余計みっともないことになってしまうんです。また、一見、若々しく見える人でも、年齢を重ねると首のしわや日焼けのしみなどがどうしても出てくる。襟がないTシャツはそれもカバーしてくれない。実際、私自身、40歳を過ぎてからは外出の際にTシャツは着ていません。Tシャツというアイテムが自分の年齢にふさわしくないと気付いたからです。
40歳を過ぎてしまえば、マッチョにせよメタボにせよ痩せにせよTシャツはNG。これが宮崎流ファッションの基本である、と。しかし現実には、日本のビジネスパーソンの多くは今日もオーバーサイズのスーツで通勤し、休日はTシャツ姿で過ごしている。なぜ、ファッションの常識がうまく日本に伝わらなかったのでしょう。
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