天平彫刻に見る材質のヒエラルキー

 創建当初の三月堂に安置されていた諸尊は、本尊の不空羂索観音のみ脱活乾漆造の漆箔像ですが、脇侍の日光・月光(当初は梵天・帝釈天か。現・東大寺ミュージアム)、四天王(現・戒壇堂)、北面厨子内の執金剛神などは全て彩色塑像でした。また天平時代に集中して採用された技法に、木彫と乾漆技法を併用した木心乾漆技法があります。代表作例は、大御輪寺(大神神社の神宮寺)の本尊であった聖林寺十一面観音立像です(註)

聖林寺十一面観音立像(撮影/小島久典)
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聖林寺十一面観音立像木心構造図(作図/朱若麟)

 確実な記録は残されていませんが、創建当初の東大寺大仏殿にも、材質によるヒエラルキーによって、中尊は最も高価な金銅金鍍金の毘盧舎那仏、脇侍は脱活乾漆および漆箔彩色、四天王は脱活乾漆造または塑造および彩色、南大門の仁王は彩色塑造ではなかったかと想像されます。

 仏像が発生したガンダーラやアフガニスタンでは石材で仏像が彫刻されました。中国の河北でも磨崖仏のような石窟で造られました。これは岩石が持つ永遠不変性によることと、巨像を制作できたからでしょう。一方、江南では白檀を用いた精緻な木彫仏が多く造られました。これは「仏説十一面観世音神咒経」などの記載に準拠したもので、仏教が生まれたインドを原産とする材料であることと、圧倒的な香りの良さによるものでしょう。

(註)聖林寺十一面観音立像:日本最古の神社ともいわれる大神神社(おおみわじんじゃ)は、神仏習合寺院の大御輪寺(だいごりんじ)としてたいへん栄え、そのご本尊として祀られていたのがこの十一面観音立像です。木心乾漆造の傑作で、造形は東大寺造仏所の特徴を持っています。明治初年の廃仏毀釈のおりに、大御輪寺から聖林寺住職が譲り受け、それ以来、同寺で大切に祀られています。

作画/籔内佐斗司、籔内佐斗司工房(新保裕希、福田星良)

■変更履歴
タイトルを掲載当初から変更いたしました [2019/10/15 11:55]
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