小田嶋:そう、全速力なんかでぶっちぎれるわけがないでしょう。300メートルを過ぎた時に、目の前が暗くなって、足が上がらないぞと思いながら、なんか泳ぐようになっていって。

 陸で溺れてしまった、と。

:陸上部の走りじゃないよね、それ。

小田嶋:途中で完全に電池切れして、ゴール後、2分ぐらいは全然起き上がれなくなっていた。やっとのことで起き上がって、こんなのするんじゃなかった、と後悔しながら家に帰ったら、全身が張っていた。肩がものすごく重くて、そうか、これを肩凝りと言うのだな、と。

 いや、それ、肩凝りかな?

:全身筋肉痛だよ、正しくは。

 はい、それだと思います。

小田嶋:そうなのか。

:凝ってはいるんだろうけど、凝りというより、もはや筋肉痛だよ。だから肩凝りって、それが凝われていたとしても、小田嶋や俺のように自覚できないというやつがいるの。で、自覚していないんだから、いいんじゃないか、ということになる。

小田嶋:その意味で、自覚しない方がいいということがあるよね。

 そういう処し方もあるんですね。

小田嶋:それで俺なんかは30年ぐらい、人間ドックとか区の検診とか、何の検査もしないで来ましたからね。

 それを聞くと、考え込んでしまいますが……。

:その分、今、一気にものすごい量の検査を受けて、取り戻しているわけだよ、小田嶋の場合は。

■対人スキルが必要な仕事ってそんなに多いか?

 反面教師としてうかがっておきます。ところで小田嶋さんは、入院中のメンタル面は大丈夫ですか。

小田嶋:それは基本、普段の俺の生活と変わらないから、精神的なダメージはあんまり感じていないです。

:屋内に引きこもっているという点で、小田嶋の場合は入院も普段も変わらない。それが小田嶋の強みです。

小田嶋:対人関係のしがらみをあんまり持っていない、というところが、逆にいいんだと思う。今の21世紀って、普通の人たちの7割か8割は第3次産業の従事者になっちゃうでしょう。我々が子供のころは、まだ農林水産業の従事者が50%に近い時代があって、それと第2次産業を混ぜると、対人関係のスキルが必要になる職業って、そんなになかったんだよね。だから俺みたいなやり方は、別に特殊でも何でもない。

 なるほど。

小田嶋:人類の長い歴史を考えると、「人間の相手をしていた人間」って、そんなにたくさんはいなかったんですよ。作物の相手をしたり、椅子を作っていたりと、自然や事物の相手をしていた方が、人類史の中ではずっと長いわけですから。

:農作物の相手をするために必要な資質は、今のようなインターネット時代の人間関係の中では、実は邪魔になるんじゃないかな。だとしたら、ひどい錯誤だよね。

小田嶋:「コミュ力」ってヘンな言葉が言われ出したのが、たぶん20年ぐらい前でしょう。その前まで、たとえば理系のやつの就職なんて、面接もなかった時代ですよ。院卒じゃなくて学部卒でも、いわゆる理系の研究者が集まるタイプの職場に入ると、そこには他人と口もきけないようなやつが半分ぐらいいたわけですよ。

 あくまでも小田嶋さん個人の感想です。

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