全5571文字

■欠落こそが、才能だ

で、不整脈についても、いつものように、ご自分の症状を周りに広く告知されて。

:そんなこと、していませんよ。するわけがないじゃないですか。

小田嶋:おまえは昔、自分の左脳には、あるべきはずの太い血管がないんだよ、という話を、ぐいぐいとしていなかった? それで、何か交通事故とかに遭って、意識不明になった時に、医者が「あ、左脳の血管がない」と驚いて、バイパス手術を施されてしまう恐れがあるから、その時は俺たちが止めるように、とか何とか、みんなにがーがーと言い置いていたよね。

*この連載のスタート時の、懐かしいエピソードです。詳細は『人生2割がちょうどいい』(講談社)36ページでどうぞ。

:よく覚えているね。

それを聞いて、小田嶋さんが「価値とは欠如である」というようなサルトルの言葉を引用されていました。

小田嶋:岡の左脳に血管がない、ということは、それは俺としては、すごく腑に落ちる話だった。左脳って論理をつかさどる方でしょ。だから。

:失礼な。細い血管はいっぱいあるぞ。ただ、メインの太い血管がない、というだけで。

小田嶋:そこで太いメインの血管に代わって、細い血管が独自の不思議な伝達発信ネットワークを張り巡らせちゃっている、というところが、いかにも岡の脳なんだよ。

オンリーワンの才能の原点は、脳の異常にあった、と。

:そういうことを小田嶋には言われたくない、というのはあるんだけれど、でも、もう60歳過ぎたら、それぞれにいろいろ何かあるんじゃないの。調べれば、ぽろぽろ出てくるよ、みんな。

小田嶋:それはありますよ。

私は先日、人生で初めて寝起きにベッドから落ち、気を失って、自分の運動能力の衰えに恐怖を感じました。

小田嶋:うーん。清野さんもいい年になってきましたね。

はい、五十路の最終コーナーです。

:えー、ということは、僕たち、いったい何年、こうやって話しているの?

干支一回り分です。この対談の初回は2007年でした。

:ということは、みんな、それぞれが死に近づいていることだけは確かなんだよ。

小田嶋:嫌なことだけど、それは真実ですね。

:唯一の真実。それで今回、小田嶋の入院にあたり、僕が小田嶋から学んだことがある。