:たこ焼きの形をしたスタンプが、消しゴムになっているわけで、オリエンテーションのときも、なんか座が脱力せざるを得ない。それが制作費3000万円で、テレビのスポット媒体費が3億円でしょう。今じゃ考えられないですね。

※懐かしい!という方、なんだそれは?という方は、三菱鉛筆さんの公式ページをどうぞ。他にも「えっ」となるおまけが続々と(こちら)。

小田嶋:たこ焼きスタンプ消しゴムは置いておくにしても、テレビCMで映像もアイデアもがっつりと豪華なものは、たくさんありましたよ。だから、当時はテレビを見ていて、いいところでCMが入ってきても、そんなに腹が立たなかった。でも、今は間のCMが長いと……。

:ふざけるな、と。

:悲しいことに、今、日本の映画も力がなくなっているんだよ。

小田嶋:興行収入は悪くない、だけど、韓国と日本の映画界はどうしてこんなに差がついたんだ問題、というのがときどき語られているね。あれはやっぱりお金の問題もあると思うけど、一説によれば、韓国は自国の市場がそんなに大きくないから、やむを得ず海外に出ていかないとやっていけない、という時代があった、と。

:今は韓国の映画人口も増えて、むしろ日本よりも余計に見ているから、1人当たりでいうと、日本と韓国の市場規模は、そんなに差がないそうだけどね。

小田嶋:ただ90年代とかは、韓国国内だけじゃ映画は無理だということで、国策として若い映画人をハリウッドに修業に出したんだって。映画のまわりの、編集だったり、メーキャップだったり、あらゆる種類の仕事を、その修業の人たちがタダで引き受けて、それで彼らが膨大なノウハウを持って自国に帰ってきた。そうやって、カメラマンとか編集とか、ハリウッドレベルで訓練を受けたすごい人たちが韓国映画界に蓄えられた、というのが一つ。

 もう一つは、国が補助金を出して、海外向けの作品を作ろうということを、ずっとやっているということで、そもそもターゲットを世界に置いている。

:それだと、日本はかなわないよ。

小田嶋:日本は市場規模の点で、日本国内でなんとかなっちゃうからというので、キャスティングはジャニーズ任せだったりとか、何かそういうところに落ちていってしまう。

:数だけはある、ということで、ジャニーズかAKBがキャスティングされないと、客が入らないということにされてしまっている。それでいうと、韓国映画は役者たちもうまいんですよ。そんな美男美女じゃないんだけど、とにかく演技が力強い。役者のレベルが、日本と全然違います。

小田嶋:韓国にはレベルの高いアクターズスクールみたいなのがあると聞きましたよ。ハリウッドもそうだけど、俳優になる人って、そうやって専門に演技の勉強をするわけだよね。でも日本だと、演技力うんぬんの前に、タレントとして知名度があるから配役されました、みたいなことになっているから、レベル以前でキャストが決まる、と言えば言えるんだよね。

:端的にいうと、キャストから作っていたら映画そのものがだめになるんですよ。「パラサイト 半地下の家族」(ポン・ジュノ監督)には、もう圧倒されちゃいましたから。舞台は韓国だけで、そんなに制作費はかかっていないですよ。それでも、ここまでできるのか、と感動した。

小田嶋:町山智浩さんから聞いたんだけど、あの映画のカメラマンは、ハリウッドの一流映画を撮った人なんだってね。だから、ぱっととらえた映像に安っぽさが全然ない、と彼は言っていて、なるほどと思いましたね。

:カメラワークもそうだけど、でも、ホン(脚本)も違うね。まあ、韓国みたいに貧富の差が明らかすぎるほど明らかという社会だったら、それがドラマとして成り立つんだろうけど、日本はそこまで顕在化していないからね。ドラマを作りにくいというのはあるのかもしれない。そうすると、日本で世界に出すことができるのは、アニメと是枝さん(是枝裕和監督作品)しかなくなっちゃう、という。

でも、かつての日本には黒澤明監督や、小津安二郎監督がいらっしゃいました。

:そうなんですよ。「マーケットイン」だか何だかという、製造業のマーケティングを映画製作に導入してから、ジャニーズとAKB+何か、というタコつぼに、どんどん入っていくようになりましたよね。

小田嶋:事前に市場を調査して、その市場に間違いのない商品を出す、なんてことで作っている限りは、そこから抜け出せないよね。

:だいたい黒澤監督のころって、マーケティング、なかったでしょう。黒澤さんが作りたいものを作ってくださいと、そういうことだったでしょう。

究極の「プロダクトアウト」ですね。

:小津監督だってそうでしょう。マーケティングなんてもんじゃ、まったくない。

小田嶋:そこにあるのは、クリエーターのエゴだよね。

:映画会社と大げんかをしながら、自分の映画を作ったわけだよね。それで、その作品だって、決して明るいものじゃないんだよ。「麦秋」だって、「東京物語」だって、人間のどうしようもない悲しさ、はかなさを扱っている。だけど、それらが今にいたるまで、世界で絶大な人気を誇っているわけでしょう。ハリウッドをはじめ、後世の大監督たちに影響を与えて。