美しいパスサッカーと圧倒的な強さで、世界中のファンを魅了するスペインのFCバルセロナ。このクラブの強さの秘密を「組織文化」の観点からひもといた『FCバルセロナ 常勝の組織学』(日経BP)が2019年6月に発売された。

 なぜ、バルサ(FCバルセロナの愛称)のプレーは、いつの時代も変わらずに美しいのか。なぜ、栄枯盛衰の激しいプロ・スポーツの世界で勝ち続けることができるのか。

 その「解」を、本書の著者であり、スポーツ心理学者兼組織改善コンサルタントのダミアン・ヒューズ氏は「クラブのアイデンティティーとして関係者全員が共有する、高い成果を継続的に生み出す文化」、つまり「ハイパフォーマンス文化」にあると分析する。

 では、企業組織がバルサのような文化を醸成するには、どうすればいいのか。

 『FCバルセロナ 常勝の組織学』の日本語版解説を手掛けた日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏は、実際にバルセロナを訪れ、バルサ関係者らへの取材を敢行。本連載では、現地・バルセロナでの取材から見えてきた「文化の育み方・守り方」を紹介する。

(取材・構成/山内 宏泰)

FCバルセロナに取材した日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
FCバルセロナに取材した日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

前回は、FCバルセロナがコミットメント型組織文化の成功例だというお話を伺いました(詳細は「FCバルサ、スター選手が不在でも「勝てる」文化があった」)。ではこのクラブは、いかにして文化を築き上げてきたのでしょうか。

中竹氏(以下、中竹):そこは歴史的な背景が大きく関わりますね。FCバルセロナの文化を根底で支えているのは、バルセロナの街を含むカタルーニャ地方の歴史です。

 カタルーニャ地方は、長く自治を巡って、周辺と闘いを繰り返し、幾度もアイデンティティーを奪われてきました。独自の言語を使うことも禁じられてきた中で、サッカーのクラブというものを自分たちのアイデンティティーを表すものと見てきたのでしょう。

 現在もカタルーニャの自治独立問題は解決していません。「直接弾圧を受けた体験を持つ人がいなくなっても、放っておけば、またいつか独自の言葉を話せないような環境に変わってしまうかも分からない」。彼らの中に、そんな危機感があるからこそ、常に自分たちの文化を大切に守ろうという意識が働いている。

 FCバルセロナの確固たる文化は、そうした逆境の歴史が育んだものであり、だからこそこんなに強いのでしょうね。

中竹さんは今年、バルセロナに赴いて、バルサのコミットメント型文化のありようをさまざまな角度から見てきたそうですね。バルセロナではやはり、文化が深く根を下ろしていることを実感しましたか。

中竹:実際にバルセロナの街では、クラブ関係者ではない市民の方に話を聞いても、FCバルセロナの歴史をちゃんと語ってくれるんです。

 彼らは「バルサは『モア・ザン・クラブ』だ」と言っていました。つまりフットボールクラブを超えた存在であり、自分たちのアイデンティティーをそこに見いだしているのです。

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