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 美しいパスサッカーと圧倒的な強さで、世界中のファンを魅了するスペインのFCバルセロナ。このクラブの強さの秘密を「組織文化」の観点からひもといた『FCバルセロナ 常勝の組織学』(日経BP)が2019年6月に発売された。

 なぜ、バルサ(FCバルセロナの愛称)のプレーは、いつの時代も変わらずに美しいのか。なぜ、栄枯盛衰の激しいプロ・スポーツの世界で勝ち続けることができるのか。

 その「解」を、本書の著者であり、スポーツ心理学者兼組織改善コンサルタントのダミアン・ヒューズ氏は「クラブのアイデンティティーとして関係者全員が共有する、高い成果を継続的に生み出す文化」、つまり「ハイパフォーマンス文化」にあると分析する。

 では、企業組織がバルサのような文化を醸成するには、どうすればいいのか。

 『FCバルセロナ 常勝の組織学』の日本語版解説を手掛けた日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏は、実際にバルセロナを訪れ、バルサ関係者らへの取材を敢行。本連載では、現地・バルセロナでの取材から見えてきた「文化の育み方・守り方」を紹介する。

(取材・構成/山内 宏泰)

FCバルセロナに取材した日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターの中竹竜二氏(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

組織の根底にある「文化」にまでメスを入れなければ、組織改革は成功しないというのが前回(詳細は『バルサに根づく常勝の文化、企業の文化はどう変える?』)のお話でした。確かに企業再生などのケースでは、再建時に外部の風を入れて、一見、持ち直したかのように思えても、いつの間にか再び以前と同じような文化に戻ってしまっていた……。そんな企業再建の失敗例を時々耳にします。それほど「文化」が企業の根底に根づいている、という証左のようにも感じられます。

中竹氏(以下、中竹):最近は「働き方改革」などが提唱されている世の流れもあって、組織の構成員一人ひとりの行動や習慣に口を挟んだりするのは敬遠される傾向にありますよね。

 けれど、組織の文化を新たに醸成したいのなら、人の行動や習慣に目を向けざるを得ません。

 それは何も監視を強化するといった類いの話ではありません。

 そうではなくて、仕事に当たるときにどんな表情をしているのか、仕事相手への敬意がどう発露しているか、といった組織を構成する人たちの普段の振る舞いや態度に着目するといいんです。

 一生懸命仕事に向き合うことを惜しんでいないか。本気で働く仲間をバカにしていないか。人のために力を尽くすことを推奨しているか。

 そうした姿勢こそ、能力やスキル、知識にも増して大切であるという考えは、このところのリーダーシップ論の中でも語られていることです。

 その見方を組織全体にも当てはめていこう、という流れが出はじめているのです。

そう聞くと、『FCバルセロナ 常勝の組織学』の冒頭の話が大変分かりやすくなります。本書は、公式試合中のFCバルセロナのベンチの描写から始まります。就任間もないジョゼップ・グアルディオラ監督は、自チームのバルサが先制のチャンスを迎えたものの、シュートがわずかにそれた瞬間にベンチを振り返って、リザーブ選手たちの反応をうかがいます。飛び上がった後で頭を抱えて不満をあらわにした選手もいれば、無反応で興味を示さない選手もいた。そして次のシーズンが始まる頃、無関心な反応の選手たちは全員、クラブを去っていたというのです。

中竹:組織の根底にある文化を見定めるための着眼点がよく示されていますね。PKを外したときに、リザーブ選手がどういう表情をするかに着目すると、そこに本当の文化が垣間見えるし、文化を共有しているのは誰かというのも分かります。描写に続けて、グアルディオラ監督はこう言ったとも書かれています。

 「チーム文化というのは、チーム関係者全員が何をして、どう振る舞うかだ。チームが一つの目標に向かって進む上で、文化も役割を果たしている。だから、文化は集団のアイデンティティーの一部として、見た瞬間にそれと認識できる」

 全くその通りだと思います。

 ただし、1つ言っておくべきは『FCバルセロナ 常勝の組織学』は、主にコミットメント型の組織文化について説いたものであって、その最良の例としてFCバルセロナを取り上げているということです。

 組織文化には、ほかにもいろんなパターンがありますから、バルサの組織文化を目指すことが絶対の正解というわけではありません。