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米アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトという世界を代表する2社がそれぞれ1兆円規模の買収に動いていたとされるベンチャーが米スラック・テクノロジーズだ。だがスラックは、こうした買収提案を蹴って経営の自主独立を守る方針を貫き、株式上場を果たした。ビジネスチャットという新領域で旋風を起こすスラックの強みはどこにあるのか。日経BPから刊行した10年後のGAFAを探せ 世界を変える100社』で取り上げた多様なイノベーションを生み出すベンチャーを紹介する本連載の4回目では、スラックを取り上げる。

 ビジネス用のチャットツール「スラック」が旋風を巻き起こしている。アプリに文字などを打ち込むだけで、チーム全員で情報を共有できる。1対1でもグループでも、誰とでもチャットが可能なことに加えて、PCやスマートフォンなど端末も選ばない。

 仕事をするうえで必要な情報を迅速に共有したり、意見交換したりできることが人気になり、瞬く間にユーザー数が増加。14年のサービス開始から5年で、利用者の数は全世界で1000万人を超えた。電子メールと異なり、宛先アドレスを入力する必要がなく、大事なメッセージが埋もれにくい。返信が重なっても「Re:Re:」のような意味不明な件名に悩まされることもない。

 世界的に普及が進むスラックを開発したのが米スラック・テクノロジーズだ。2019年6月20日に米ニューヨーク証券取引所に株式を上場。初値は取引所が事前に示す参考価格を48%上回り、株式時価総額は約195億ドル(約2兆1000億円)に達した。

株式を上場した米ニューヨーク証券取引所の前に立つスラックの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド氏
 

 スラックの2019年1月期の売上高は約4億ドル(約430億円)、最終損失は約1億4000万ドル(約150億円)。売上高規模が小さい、赤字のベンチャーなのに、過大な評価ではないかと思う人は少なくないことだろう。

 だが上場前から、スラックは世界的なIT大手から巨額の買収オファーを受けていた。2016年にはマイクロソフトが80億ドルで買収を検討していたと報じられ、2017年にもアマゾンが90億ドルで買収を打診したと報じられていた。

 1兆円規模の買収オファーに心が動かない経営者はなかなかいないはずだ。多くの株式を保有する創業者は、莫大な資産を手にすることが可能になる。だが、スラックの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド氏は、自主独立の経営を貫く道を選んだ。