世界広しといえども、ここまで謎に満ちたベンチャーはめったにないだろう。ビッグデータ解析の米パランティア・テクノロジーズ。注目すべきはその顧客だ。米軍や諜報(ちょうほう)機関など機密情報を扱う組織が軒並み顧客になっている。洪水のような大量のデータから、探したい情報を短時間で見つけ出すノウハウが評価されているからだ。顧客は政府から金融機関、製薬会社、メーカーにまで広がり、上場した場合の時価総額は410億ドル(約4兆5000億円)にも達するとされている。
日経BPから刊行した『10年後のGAFAを探せ 世界を変える100社』で取り上げた多様なイノベーションを生み出すベンチャーを紹介する本連載の2回目では、米配車サービス大手のウーバーテクノロジーズ級の企業価値を持つとされるパランティアを取り上げる。
米国の中央情報局(CIA)、連邦捜査局(FBI)、証券取引委員会(SEC)から空軍、海兵隊までが頼る謎多きビッグデータ解析ベンチャー──。
それが米シリコンバレーに本社を置く、パランティア・テクノロジーズだ。「パランティア」とは、トールキンの『指輪物語』に登場する何でも見通すことができる水晶玉のこと。2001年9月11日の米同時多発テロの首謀者とされ、10年間にわたり逃亡を続けていたウサマ・ビンラディンの捜索にも貢献したと噂されている。
パランティアの強みは、まるで“魔法の水晶玉”を手にしているかのように、通常なら分析が難しい大量のデータを短時間で解析して、探したい情報を見つけ出せる技術にある。
具体的には、メールや文書、画像、音声、動画などの非構造化データを統合・分析できる同社の「ゴッサム」というソフトウエアを利用。従来は、高い専門性を持つ多くの人間と、途方もない手間と時間がかかっていた膨大なデータの分析を、比較的簡単に実行できるという。
エクセルのようなファイルに収納された構造化データと違い、非構造化データを解析するのは難しい。それを可能にするのが、「ダイナミック・オントロジー」という情報の定義を柔軟に変える技術だ。
例えば、「部長」「社長」といった言葉は、一般的な名詞であるのと同時に、その役職に就いている特定の人物を指す場合がある。「地名」も、ある企業の本社や特定の人物を意味することが少なくない。
ゴッサムではこうした用語の定義を簡単に変更でき、利用者が知りたい情報を短時間で見つけ出して解析できるという。以前なら何年もかかったようなデータ解析を数週間で終わらせることを可能にするものだ。
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