テレビ東京アナウンサー・西野志海と日経ビジネス編集委員・山川龍雄が、世間を騒がせている時事問題をゲストに直撃する動画シリーズ。第23回のテーマは、減速目立つ景気指標「消費増税は正しかったのか?」。軽減税率やポイント還元など手厚い対策を盛り込んだが、それでも増税後の指標はさえない。塚崎公義・久留米大学教授は、円建て債務が中心の日本で「国債のデフォルトが起きる可能性は低い」と指摘。「国の借金が1100兆円を超える中で、5兆円程度の税収は誤差の範囲内。不安材料が多いこの時期にあえて増税する必要はなかった」と強調する。痛税感を伴い、景気への影響が大きい消費税よりも、資産課税を強化すべきだと提言。配偶者や子供がいない人の場合、「相続税8割」を主張する。
西野志海(日経プラス10サタデー・キャスター、以下、西野):このコンテンツは、BSテレ東で毎週土曜日朝9時から放送している「日経プラス10サタデー ニュースの疑問」の中でお伝えし切れなかったことを、改めてインターネットの記事や動画でお届けしようというものです。
今回のテーマは「消費増税は正しかったのか?」。増税して2カ月あまりがたちましたね。
山川龍雄(日経プラス10サタデー・メインキャスター、以下、山川):いろんな景気指標が出てきていて、心配な結果もありますね。
西野:お話を伺うのは元銀行マンで、経済や金融の専門家、久留米大学教授の塚崎公義さんです。よろしくお願いします。
塚崎公義氏(久留米大学教授、以下、塚崎氏):よろしくお願いします。
塚崎公義(つかさき・きみよし)
1981年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(元みずほ銀行)入行。経済調査関連を担当し、2000年に財団法人国際金融情報センターに出向、2005年に退職し、久留米大学教授。著書に『日本経済が黄金期に入ったこれだけの理由』(河出書房新社)、『一番わかりやすい日本経済入門』(河出書房新社)など。
西野:では、最初の川柳です。
アクセルとブレーキ踏んで 大丈夫?
安倍政権はデフレ脱却に向け、金融緩和というアクセルを踏み続けてきたわけですが、そんなときに、2度目の消費税の増税に踏み切りました。この決断は正しかったのでしょうか。
塚崎氏:増税は景気が悪くならないタイミングを見計らって実行すべきです。その意味では、現在は米中の貿易摩擦やオリンピック後の景気など、いろんな不安材料があります。もう少し待っても問題はなかったのではないでしょうか。
西野:企業業績も好調さを欠いています。前回の増税時よりも景気の足腰は弱いように感じますね。
実際に増税後に発表された景気指標を見てみましょう。
上の左側の赤い数字が今回、右側の青い数字が前回2014年のときのデータです。消費支出、景気ウオッチャー調査、小売売上高、日銀短観を並べましたが、全体にマイナスの影響が出ていますね。
山川:塚崎さんはどこに注目しますか?
塚崎氏:単月の数字だと台風の影響などいろいろあるので、11~12月も見たいところです。まだ、はっきりしたことは言えません。
ただ、いずれの指標も低迷していることは確かです。やはり、このタイミングで増税を強行する必要はなかったと感じます。
山川:確かに、景気ウオッチャー調査、いわゆる「街角景気」や、日銀短観を見ると、そもそも前回の増税時よりも、地合いが悪いときに増税に踏み切ったことが分かりますね。そして増税後はさらに指標が悪化している。
塚崎:少なくとも、景気の状況を見極めるために、1年は待つべきだったと思います。
消費増税は10年待つべきだった
山川:1年でいいのですか?
塚崎氏:本音で言うと10年待つべきだと思います。
山川:10年?
塚崎氏:10年たつと、少子高齢化で人手不足になるので、増税して景気が悪くなっても失業者が増えません。むしろ増税しないと、インフレが心配になってくる。そうなると、今よりは「増税はやむを得ない」というムードが出てくると予想しています。
山川:雇用の心配がなければ、今よりは増税に納得する人が増えるだろうと?
塚崎氏:10年たったら、私も増税賛成派ということで、財務省の応援団に加わるかもしれません(笑)。
西野:そもそも今回は、増税後の反動減を抑えるために、政府が様々な対策を打ってきたわけですが、それでも指標がさえません。
先ほどの小売りへの影響をさらに細かく見てみましょう。
山川:台風の影響もあったとはいえ、自動車、家電は前回より落ち込みがひどい。食料品は、軽減税率を導入したわけですから、本来であれば影響を受けないはずなのに、前回の落ち込みとほぼ同じですね。
塚崎氏:増税幅はそれほど大きくなかったし、軽減税率などいろいろな対策も取られたはずですが、今のところ出てきた指標は悪い。
この先は大型予算など対策を打ち出したので、景気が底割れすることはないと思います。ただ、増税して、これほど大規模な対策を打つのなら、財政的にはプラスになりません。財政健全化という視点でも、増税する必要はなかったということになってしまいます。
山川:そこは財務省の側に立てば、当面は経済対策で歳出の方が多くなったとしても、恒常的な税収を確保することを優先したということではないでしょうか。消費税は景気に影響されにくい税といわれますから。
塚崎氏:まあ、そうなんでしょうけれどね。
西野:先延ばしにした方がよかったというお話でしたが、逆に2017年4月に予定されていたときに先送りしなければよかったとお考えでしょうか。
塚崎氏:そうですね。前回のときは、私はこれほど反対していません。景気の足腰が今よりは強かったですから。心配材料も今ほどはありませんでした。
山川:確かに、政府は当時、リーマン・ショック級の出来事が起きない限り、増税するという立場を示してきました。そして結局、延期したわけですが「どこでリーマン・ショック級の出来事が起きているんだろう」というような状況でした。
西野:政府は12月18日、2020年度の実質国内総生産(GDP)成長率を1.4%とする経済見通しを示しました。経済対策が内需を押し上げるという判断です。ただ、民間エコノミストの予想と1ポイント近く開きがありますが、計画は達成できるのでしょうか?
塚崎氏:増税して「しまった」という状況なので、大規模な予算を組んで「失敗しなかった」と言い張りたいのでしょう。
山川:第2次安倍政権が発足した2012年度以降の経済成長率を見ると、13年度と17年度を除いて実績が政府見通しを下回っています。今回もかなり無理をした見通しのようにも見えます。
塚崎氏:実現できるかどうかは、この先の海外景気の影響を受けるでしょう。
ともあれ、増税をやってしまった以上、対策は実行しないよりは、する方がよい。増税は必要なかったと思いますが、その後、対策を取ったので、大学で言えば「不可」は付かずに、単位はもらえるという感じでしょうか。ただ、効果があるところに使われているかどうかは、検証が必要だと思います。
西野:次の疑問にいきましょう。
本当に 日本の財政 危ないの?
そもそも日本の財政は、このタイミングで増税に踏み切らなければならないほど、危険な状態なのでしょうか?
塚崎氏:日本の財政については、専門家の間でも意見が分かれます。ただ、消費税を2%引き上げても、5兆円程度の税収でしょう。私が言いたいのは、国の借金が1100兆円を超える状況下で、5兆円というのは誤差の範囲内ということです。
日本の財政が危ないと言っている人にとっては、今、消費税を上げても危ないのは変わりません。危なくないと言っている人から見ると、今引き上げなくても、どうせ危なくない(笑)。だったら景気が万全なタイミングを見計らって上げればいいでしょう。
西野:塚崎さんは危なくないとみている。
塚崎氏:大丈夫だと思っています。日本の借金は円建てですから。もしも日本が経常収支赤字国で、政府がドル建てで借金しているのだとしたら、話は変わりますが。
日本の財政は大丈夫
山川:ここで興味深いものを紹介しましょう。財務省が海外の格付け機関に向けて説明している意見書です。2002年と少し古いですが、海外の格付け会社が日本国債を引き下げようとしているときに出したものです。
ここには「自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と書いています。つまり、円建てで借金しているのだから危なくないと、財務省自身が外に向けて説明しています。
他の項目も同様に、日本の財政は危なくないと言っています。でも、財務省はこういう説明を国内向けには、ほとんどしないんですよね(笑)。
塚崎氏:頭のいい人たちが、目的合理性をもって使い分けているんでしょう(笑)。
山川:そうすると、外向けに説明している方が真実?
塚崎氏:私はそう思います。特にこれは格付けですから、デフォルト、つまり政府が破産するかどうかという話でしょう。破産するかどうかと言われれば、しないと思います。
ただ、財政が悪化すればインフレのリスクは高まるので、借金を削減しなくてもいいと思っているわけではありません。
山川:将来、デフレからインフレに変われば、金利も上がります。そうなれば、政府債務の利払いが増えてしまいます。
塚崎氏:放っておいていいとは言っていません。どこかの段階で増税はしなければならないでしょう。先ほども述べましたが、10年たてば、今よりもずっと増税を実行しやすくなります。そこまで待てばいい。
山川:本当に、10年後は増税をしやすい環境が整っていますか?
確かに人手不足にはなるかもしれませんが、少子高齢化がさらに進んで、経済の足腰はさらに弱まっているのではないでしょうか。
塚崎氏:人手不足がさらに深刻になれば、失業ではなく、インフレが心配になる時代が来ます。インフレを止めるためには、増税はやむを得ないという地合いが整うはずです。減税派は黙らざるを得ないし、増税派が勢いを増すでしょう。
山川:インフレが進んだときに、賃金も伸びていれば、増税を受け入れる機運が浮上するかもしれません。しかし、日本企業が内部留保を抱えて、投資にも賃金にも回さない最近の傾向を見ていると、本当にそんな地合いが整うのか、心配になります。
家計の収入が増えずに、インフレだけが進んで、みんなが増税に納得するでしょうか。そこは政治的にも難しくありませんか。
塚崎氏:でもインフレになってしまったら困りますよ。失業が心配なときよりは、増税しやすくなるのは確かだと思います。
賃金については、会社員の給与はなかなか上がらないと思いますが、労働力不足のときは、少なくともアルバイトやパートなど非正規従業員の時給は上がります。一番恵まれていない人にとっては、増税が「厳しい」という状況にはならないと思います。
山川:塚崎さんは、今後10年は消費税を上げるタイミングではないけれども、消費税そのものに反対しているわけではない?
塚崎氏:いや、私はどうせ増税するなら、他の税がいいと思っています。
西野:そこで3つ目の疑問です。
消費税 かわりの財源 どこにある
そもそも消費税は正しい選択なのか。それに代わる税収確保の手段はないのか、ということですが……。
塚崎氏:消費税は駆け込み需要とその反動減というつまらない動きを生み、物を買うたびに税金を取られて痛税感が強い。あまりいい税ではありません。
しかも、所得税であれば、景気が悪くなったときに税の支払いが減るので、景気の落ち込みを和らげる効果がありますが、消費税は景気が悪くなっても、消費額はそれほど減りません。
山川:税を徴収する側からすると、景気の影響を受けにくい、とてもいい税金かもしれません。ただ、取られる側からすると、景気が悪いときでも取られてしまうから、より消費を冷え込ませる税とも言えますね。
塚崎氏:だから私は、税収確保の手段としての消費税は、そもそもあまり賛成しません。
山川:上に平成30年間の税収推移が示されています。直近の2019年度は62.5兆円で、30年かけてようやくバブル当時の水準を上回りました。構成比を見ると、1989年当時は所得税と法人税が多く、消費税は始まったばかりでした。
これに対して、2019年度は消費税収がぐっと増えてきています。結局、30年かけて、法人税収の落ち込み分を消費税で賄った形になっています。そして2020年度の予算では、消費税収が所得税収を抜いて一番になります。
果たしてこの選択が正しかったのかどうか。もしかしたら、人口減少などとともに、消費税の導入が、平成の「失われた30年」の一因だったのかもしれません。
塚崎氏:私は法人税を大幅に減税したことについて、納得していません。
よく法人税率が高いと製造業が海外に出ていってしまうと言いますが、本当にそうでしょうか。ついこの間までアメリカは法人税がずいぶん高かったのですが、それでも工場を建てる企業はたくさんありました。工場が海外に移るのは、本当に法人税のせいなのでしょうか。
山川:こちらは第2次安倍政権以降の税収の推移です。ご覧の通り、税収は順調に増えています。構成比を見ると、やはり消費税を2回引き上げたのが効いていて、消費税収が全体を押し上げています。
気になるのが、法人税収です。アベノミクスが始まって以降、法人税率を引き下げたので、ほとんど増えていません。
実はこの間、企業業績を見ると、純利益は23兆円から62兆円に増えていて、内部留保は304兆円から463兆円にまで積み上がっています。
日本企業が海外で稼ぐようになったので、国内の法人税収に直接つながらない側面はありますが、それにしても、企業業績と法人税収が連動していません。「企業が栄えて、民は貧しいまま」という状況です。
法人減税と消費増税は悪い組み合わせ
塚崎氏:バブルのころまでは、会社がもうかれば、賃金を引き上げて、人に報いようという会社が多かった。しかし、今はもうかったら配当しようという時代になっています。これでは国民は貧しいままです。
それに、もうけた利益が設備投資にも賃上げにも回らないわけですから、そもそも景気にマイナスです。つまり法人税減税と消費税増税は、景気の面からも、とても悪い組み合わせなのです。
山川:内部留保は463兆円になっていますが、半分近くが現預金。こんなに金利が低いときに現預金で寝かせるくらいなら、せめて賃金に回しておけば、消費を刺激することができたはずです。そうすれば、所得税収も消費税収ももっと増えていたでしょう。
アベノミクスは、金融緩和で円安環境をつくり出し、法人税率も引き下げました。結果として企業業績は改善し、株価も上昇したわけですが、結局、企業のところでおカネが滞留してしまった。途中までは、狙い通りの展開だったと思いますが、そこで足踏みしているように見えます。
西野:みんな株式などに投資していればよかったのでは? 当時、教えてほしかったですね(笑)。
山川:大企業に勤めて、たくさん賞与をもらったり、株式を保有したりしている一部の人たちは当然いいわけですね。しかし、それ以外のところに回らない。つまり、富裕層や大企業に所得を多く残すと、それが投資として滴り落ち、全体が潤うという、いわゆるトリクルダウンがあまり起きていないわけです。
法人税のほかにも、税収確保の道はありますか? 塚崎さんはかねて資産にもっと課税すべきだと主張していますね。
塚崎氏:はい。日本では富裕層から税金を取ろうとすると、高額所得者から取ろうとするでしょう。しかし、実際の金持ちは、所得の多い人なのでしょうか。むしろ資産を持っている人のはずです。
現実には、数億円の資産を持っているのに、年金生活をしているから、低額所得者として扱われる人がたくさんいます。この人たちは、税金をほとんど払っていません。今の高齢者は平均で見ても、数千万円の資産を持っているわけですから、資産に余裕のある人から税を取るべきです。
山川:確かに、私の周囲を見ていても、お年寄りで裕福な生活をしているのは、その時の収入ではなくて、資産をどれだけ持っているかでほぼ決まっているような気がします。
そうした資産家の中には、税金だけでなく、医療費負担も低い人が多い。現在、高齢者の医療費の自己負担率は、年収370万円以上の人は3割です。しかし、資産家で年金生活の人のほとんどは1~2割しか負担していません。全体として、所得に厳しく、資産に甘い感じはしますね。
ただ、資産課税の話は昔からありますが、結局、資産を正確に捕捉できないというところで議論が止まってしまう。塚崎さんはどういう形で取るべきだと?
増税は相続税で
塚崎氏:一番は相続税です。痛税感がない。もらった人は、「遺産が入ってきたけれど、半分税金で持っていかれた」で済みます。自分で稼いだお金を半分持っていかれるのとは全然違います。
消費に与える影響を考えてみても、入ってきた遺産の半分が税金で持っていかれたから消費を控えようという人はいないでしょう(笑)。
山川:相続税を具体的にはどんな形で?
塚崎氏:さすがに配偶者は優遇しないといけません。残された子供もある程度、優遇してもいいかもしれません。
一番思うのは、配偶者も子供もいない人です。この場合、兄弟姉妹などにいくわけですが、これはさすがに「棚ぼた」でしょう。全部とは言わないけれど、それこそ8割くらい取ってしまってもいいのではないでしょうか。
西野:対象者はそんなに多いんですか?
塚崎氏:今はそれほど多くないですが、最近は結婚しない人や、子供がいない夫婦は増えています。50年くらいすると、ものすごい税収になりますよ。
山川:自分が亡くなった後に、支える立場の人がいない人からは、相続税をもっと取るべきだと。
塚崎氏:はい。あと公平性の観点でも納得感があるでしょう。
一生懸命働いてお金を稼いだ人からは高い税金を取るのに、たまたま金持ちの家に生まれて遺産を相続した人からは厳しく徴収しないのは、感情的にもいかがなものかと思いますよ。
山川:ただ、よくいわれるのは相続税を引き上げると海外に富裕層が逃げてしまう。この問題については?
塚崎氏:そこは国税の頑張り次第です。節税・脱税をどう封じるかという国税の工夫に期待したい。
山川:世界的にどう網の目を塞いでいくかというのも大事ですね。
塚崎氏:そう。タックスヘイブン(租税回避地)の問題も含めて世界的に連携しなければなりません。
山川:西野さん、いかがですか? 相続税の引き上げは。
西野:死んだ後もたくさん税金を取られるというのは、何か生きた心地がしません(笑)。
山川:いやいや、自分は死んでいるんだから、心地も何もないですよ(笑)。
塚崎氏:生きているうちに取られるよりいいと思いますよ(笑)。
西野:お金は生きているうちにたくさん使わないといけない、ということですね。
山川:そう。おそらく相続税が厳しくなると、どうせ最後に取られるくらいなら、早く使ってしまおうと、消費に回るでしょう。
塚崎氏:その方が経済が活性化します。
山川:相続税とともに、贈与税も引き上げるんですか?
塚崎氏:贈与税も少しは引き上げていいと思いますが、相続税とは違います。子供に贈与すれば、消費に回ります。お年寄りが持っているよりは、経済が活性化するでしょう。
西野:父に伝えます。私のために積み立ててくれているものがあるならば、なるべく早くくださいと(笑)。
塚崎さん、どうもありがとうございました。
(注:この記事の一部は、BSテレ東「日経プラス10サタデー ニュースの疑問」の番組放送中のコメントなどを入れて、加筆修正しています)
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