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アチソンラインが復活?

山川:少し先走った懸念かもしれませんが、南北融和に突っ走る文政権の動きを見ていると、最終的な防衛ラインが、南北を隔てた北緯38度線でなく、日韓両国の境界である釜山・対馬ラインまで南下する可能性はありませんか。

 上の地図に示した通り、1950年に当時の米国務長官であるアチソン氏が引いた防衛線、アチソンラインがあります。ただ冷戦の頃は、中国やロシア、北朝鮮とのラインは、韓国と台湾が西側に入る形で実質的にせり上がった形になっていました。

 このラインが元のアチソンラインまで下がってきて、日本が防衛ラインの最前線になるんじゃないかという懸念の声が聞こえてきます。

森本氏:どのラインになるかは、在韓米軍の行方だけではなく、中国がどこまで出てくるかに依ります。

 ちょうど、アチソンラインに近いところに第1列島線(九州から沖縄、台湾、フィリピンに至るライン)があります。この線を越えて中国の本土から飛んでくる弾道ミサイルから守るのは、日本が持っているミサイル防衛しかありません。

 アメリカはINF条約(中距離核戦力全廃条約)の破棄を通告し、8月に失効しました。そして8月19日にはINFの実験に成功しました。さて、この地上配備の中距離ミサイルをどこに持っていくか。

 地上配備ですから、海ではありません。もちろん台湾はあり得ません。そんなことをしようとすれば、直ちに中国から攻撃を受けるでしょう。韓国も近すぎます。日本かグアムということになるでしょう。1979年に欧州にINFを持ち込んだときに欧州中がもめた議論が、40年ぶりに今度は東アジアで蒸し返されるかもしれません。

山川:なるほど、対中国という観点で、日本では今後、様々な議論が浮上する可能性がありそうですね。

 在韓米軍の撤退・縮小の行方はどうなりますか。文大統領は時間をかけて韓国軍だけで自律したい意向を持っているようにも見えるのですが。

森本氏:韓国が相当きちんとした考え方になっていないと難しい。韓国は北朝鮮に対する脅威感が乏しい。現に北朝鮮のミサイル発射について一度も非難したことがありません。おそらくアメリカや日本に対する脅しで、自分たちへの脅威はないと考えているのでしょう。

 これは現実のパワーポリティクスを理解すれば、非常に危険な考えです。それをどこで思いとどまらせるか。文政権の間、アメリカにとっては、非常に悩ましい状態が続くでしょう。

山川:同じ民族なのだから、攻撃してくることはないはずだと。

森本氏:そこまではっきりと割り切っているわけではないのでしょうが、南北はいろんな協力ができると思っているようです。

 今年8月15日の光復節の文氏の演説では、南北の経済協力によって日本をいずれ追い抜くと言っています。平和経済という言葉を使っているのですが、内容がよく分かりません。

 やはり韓国が北東アジアの安定のカギを握っているということになります。

 日本は朝鮮半島と台湾という2つの問題を身近なところに抱えています。この2つの地域の問題が解決しない限り、我が国の安定はありません。これから相当難しい問題に直面していくかもしれません。

西野:日本では総理主催の「桜を見る会」を巡り、与野党の攻防が続いていますが、安全保障のことを考えると、桜を見ている場合ではないですね(笑)。森本さん、今日はありがとうございました。

(注:この記事の一部は、BSテレ東「日経プラス10サタデー ニュースの疑問」の番組放送中のコメントなどを入れて、加筆修正しています)

■変更履歴
3ページ目の本文中に「いかにも日本は輸出管理体制の改善に向けた意欲を示しているというニュアンスで、国内向けに説明しました」とあったのは、正しくは「いかにも日本は優遇措置を見直すというニュアンスで、韓国内向けに説明しました」でした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです 。[2019/11/28 11:30]