統一コストは誰が負担

真壁氏:そう思います。ただ、経済だけに特化したとしても、ドイツのときほど甘くはありません。先ほども申し上げましたが、44対1という経済格差はそう簡単に平準化できませんから。

 例えばよく北朝鮮には鉱山資源があるといわれます。しかし、資源は開発してこそ付加価値がつくものであり、そのためには莫大(ばくだい)なお金が必要です。韓国は資本の蓄積が少ない国で、常にドル不足に悩んでいます。そんな状況下で開発が進められるでしょうか。

 それに格差を埋めるには、労働市場改革が必要です。ドイツはそこに時間をかけてうまく進めたのですが、韓国にそれができるかどうか。

山川:労働市場改革とは、具体的にはどういうことですか。

真壁氏:格差のある国を統一すると、雇用の問題が出てきます。東西ドイツの場合、東側の工場は競争力がありませんでしたから、当然、淘汰(とうた)されて失業者が増えます。その雇用を公共投資やインフラ投資を実施して、支える必要がありました。

 ドイツの場合、それが落ち着いた2003年ごろから、ようやく労働市場の改革を実施したのです。既に統一から10年以上がたっていました。労働市場改革には、いくつかの柱がありますが、重要なのは、解雇規制の緩和です。欧州社会は伝統的に解雇要件が厳しいのですが、それを緩めました。そうやって効率の悪い国営企業から、効率の良い企業へと人材を流動化させたのです。

 そのために職業訓練と紹介制度を充実させました。新しい雇い口を紹介するときに、労働者に一定の能力が必要になるからです。さらに失業保険が膨らんで財政が悪化するのを防ぐために、社会保障制度の改革にも取り組みました。例えば、職業を紹介された労働者がその働き口を拒絶すると失業保険の金額を減らしたりしました。

 こうした改革を断行した結果、失業率が徐々に減って、うまく回り始めたのです。統一した当初、「ドイツはヨーロッパのお荷物」とまでいわれましたが、今ではご存じの通り、欧州経済を引っ張る存在になりました。

山川:ドイツ経済は、ここ1~2年は陰りが見えますが、今でも欧州経済のけん引役であることは間違いありません。その背景には、こうした改革があったわけですね。

 このドイツの苦労を、朝鮮半島に照らし合わせると、どんな教訓が得られるのでしょう。

真壁氏:ドイツは統一してから、労働改革を進めたわけですが、南北朝鮮の場合、統一する前に、格差を詰める必要がありそうです。経済格差が44対1ですから、そこでいきなり改革に踏み切ったら、相当な混乱が生まれます。

西野:経済格差を徐々に埋めていくという意味で、外国からの投資を呼び込むのはいかがですか。著名投資家のジム・ロジャーズ氏は著書で「これからは北朝鮮投資だ」と指摘しています。特に統一されたら、「観光が有望」だと書いてあったのですが。

真壁氏:可能性は十分あると思います。観光支出というのは日本でも非常に大きく、自動車産業に匹敵する規模です。それに旅行者の数はGDPとほぼ並行して増加します。世界経済が3%台で成長すれば、旅行者の数も毎年3%くらいは増えます。

 そんな旅行者がどこに行くかというと、今まで行ったことがないところは魅力的です。北朝鮮が安全になれば、訪れたいと思う人は増えるでしょう。ただ、それだけで44対1の格差が解消されるわけでは、もちろんありません。

山川:実は先日、ロジャーズ氏にインタビューしたのですが、北朝鮮の魅力を強調していました。

 ただ現時点では、海外の投資家が北朝鮮に直接投資することは原則、できません。現実は北朝鮮銘柄といわれる韓国の航空会社の株式を保有する程度のようです。本当に北朝鮮を復興させるとしたら、彼のような民間の投資家ではなく、やはり周囲の国々の支えが不可欠でしょう。

真壁氏:ロジャーズ氏は純粋な投資家ですから、期待収益率が高ければ投資するでしょうけれど、そうでなければ、大きなリスクを抱えませんよ。

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