2017年に香港政策が大転換
興梠氏:そこに彼らの矛盾がある。本来、1997年に香港が中国に返還されるにあたり、50年間は中国と異なる制度を維持することを約束した。一国二制度のもとで「高度な自治」を認めた。ところが習近平体制になってから変わったんです。大きな出来事として、2017年の第19回共産党大会で、香港に関して中央政府の「全面的管轄権」という、これまでと全然違うことを言い出した。
このときは米国でも騒ぎになりました。さらに翌18年の全人代で李克強首相の報告の中で「高度な自治」「香港人による香港の自治」という言葉を外しました。香港政策が根本的に変わったんですね。
西野:大阪のG20では、米国のトランプ大統領が香港のデモや人権の問題を持ち出すでしょうか? そこで、3つ目の疑問です。
「大阪で 一触即発? 二大国」
興梠氏:とにかく、中国政府も香港政府もこの問題がG20のテーマにならないように、控えていますよ。学生たちが座り込みをしても、手荒いことはしていない。
山川:逃亡犯条例については、香港の長官が、廃案になるとの見通しを示しました。これもG20で騒ぎにならないように、中国側が意図的に強引なことを手控えさせているということでしょうか?
興梠氏:香港でデモをする人たちは、改正案の撤回と長官の辞任を要求しています。香港政府は「廃案」とは言うが、「撤回」とは言わない。撤回すると、間違いを認めることになってしまいます。廃案であれば、「今回は間に合わなかった」ということで済むわけです。いったん廃案になっても、また出してくると香港の人たちは疑っている。
西野:米国は、この香港の民主化要求を後押しするでしょうか。そして人権のカードを切ってくるでしょうか。
興梠氏:中国の論調では、米国は裏でいろいろと動いていると見ています。
西野:その意味ではG20は潮目が変わるタイミングかもしれない?
興梠氏:でも、おそらくトランプ大統領の気持ちは揺れていると、中国側は見ています。通商については、関税を全部かけてしまうと、スマートフォンの値段が高くなるなど、消費者物価が上がってしまう。財界も騒ぎ出すし、世論が変わってくる可能性がある。選挙戦に向けて民主党もネガティブな材料として使ってくるでしょう。
北朝鮮や貿易問題が片付かないまま、景気や株価が低迷すると、トランプ大統領は選挙戦を進めにくくなる。そのことを中国政府は分かっています。だから、じっと待っている。ただ、G20では首脳会談を開いて、会うことは会う。世界中に「米中は対話している」と見せる。その方が、香港にもスポットライトが当たりにくくなるわけです。
西野:うーん、難しい!
山川:ここでG20を迎えるまでの日程を確認してみましょう。
●G20前後の主な出来事

香港の問題が起きて、習主席が急に北朝鮮を訪問しました。香港の問題を取り上げられたくないので、そのイメージをかき消す狙いがあったと見るべきですか。
興梠氏:訪朝のタイミングは唐突です。滞在期間も1泊2日と短かった。メディア戦略を重視しているんですよ。海外で中国がどう報道されるかを気にしている。香港のデモが報道され続ける中で、G20には行きたくないんですね。恥をかきたくない。メンツを重視するので。
それに北朝鮮問題ならトランプ大統領も乗ってくるだろうという計算もあるでしょう。もちろん香港でデモに参加した人たちは、中国政府の思惑を分かっているので引き続き闘おうとしている。さて、G20の最中には、どうなるか。
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