山川:この報告書で問題になったのはこのグラフです。もともとは総務省の家計調査から引っ張ってきたものですが、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の平均的な収入と支出を紹介し、支出の方が約5万5000円多いことを示しています。
そこで、無職年金世帯は、毎月の赤字が約5万円となり、「定年後に夫婦で95歳まで生きる場合には約2000万円必要」という結論を導き出しています。この報告書を読むと、しばしば「赤字」とか「不足」という表現を使っているんですね。
飯田氏:そうなんです。実際には、無職高齢者世帯には、資産家もいて、その人たちが支出の平均を押し上げている面もある。それを「赤字」や「不足」と表現してしまったところが、そもそもの間違い。
報告書を読めば分かるんですけど、金融庁はまさか、この部分に焦点が当たるとは思っていなかったのでしょう。それが証拠に報告書(データ)のグラフの画像は乱れていて、プリントアウトしても読めないんです。おそらく、厚労省などから受け取った資料を、コピー&ペーストして作ったんだと思います。
西野:あらら。
報告書の狙いの1つはiDeCoやNISAの広報宣伝
飯田氏:そのくらいの温度感だった。平たく言えば、そんなに読む人はいないだろうと思って、油断していたのでしょう。先ほども説明した通り、報告書の狙いの1つは、イデコや積み立てニーサの広報宣伝のための予算確保。その意味では、金融庁の担当者は、国民でなく、財務省や政府を向いていた。だから、結果として国民を刺激してしまうような表現がそのまま残ったのでしょう。
西野:ただ、国民が知ってしまった以上、今さら「報告書を受け取らない」と言っても、遅いですよね。そこで、2つ目の短冊を詠みます。
「年金は、預貯金よりも得ですか?」
山川:なるほど、これは聞きたいですね。
飯田氏:結論から言うと、得です。「年金を払わずに、貯金したらいい」と思うかもしれませんが、掛け金を払っていないと、高齢になっても年金は受け取れません。しかし、年金を支えるための税金は取られているんですよ。
山川:そうか、特に国民年金は税金で支えられているから。
飯田氏:半分は税金です。払わない人は「年金問題から逃れた」と思っているかもしれませんが、実際には支える税金は納めているので、入らないと大損なんです。
山川:個人差はあるでしょうけれど、年金というのは、65歳から受給するとして、何年くらい受給できたら、元が取れるんですか。
飯田氏:国民年金だと、74~75歳。厚生年金だと、75~77歳くらいまでもらうと元が取れる設計になっています。
山川:つまり65歳から10年前後もらうと元が取れる?
飯田氏:今のところはそうですね。今後はもう少し引き上げていって、例えば、80歳くらいで損益分岐点がくるようにしていく方向になると思います。それでも日本人の平均寿命で考えると(2017年の平均寿命は男性81歳、女性は87歳)、まだ、元が取れることになります。
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