先日も、カネカがパタハラで告発され炎上した。ハラスメント問題を放置することは、企業にとって大きなリスクであるーー。改めて、その事実に直面したビジネスパーソンも多いはずだだ。
一方、個人の悩みも深い。「今日のワンピース、似合っているね。デート?」と女性社員をほめる。後輩のミスに「何をやっているんだ、しっかりしろ」と怒鳴る。「新婚なのに残業させて申し訳ない。子作りの邪魔だよな」と部下に謝る。
どれも相手を苦しめたり、嫌がらせたりするつもりがあったわけではない。むしろ育成のために、またはコミュニケーションを円滑にしようと自然に出てきた言動だ。それなのにある日「ハラスメントですよ」と注意を受けてしまう——。セクハラ、パワハラを巡って、日本の職場では大きな意識の“乖離(かいり)”が生まれている。
「一体、何がアウトなんだ!!!」
本連載では「働き方改革実現会議」の一員として法改正の渦中にいるジャーナリストの白河桃子氏が、セクハラ・パワハラの「境界線」について解説。これを読めばもう、迷うことはなくなるはずだ。(聞き手/日経ビジネス 日野なおみ、構成/宮本 恵理子)
少子化ジャーナリスト 白河桃子(しらかわ・とうこ)
東京生まれ。慶応義塾大学文学部卒業後、住友商事などを経て執筆活動に入る。2008年中央大学教授山田昌弘氏と『「婚活」時代』を出版、婚活ブームの火付け役に。少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどをテーマとする。2018年1月、『広辞苑 第7版』に「婚活」が掲載される。内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員、内閣官房 第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」有識者委員、内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員などを務める。(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
白河さんの新著『ハラスメントの境界線』では、ハラスメントを放置することが個人のキャリアと組織の存続、どちらにとってもリスクになると書かれています。
白河氏(以下、白河):狭い日本社会の企業文化の中でこれまでは許されていたとしても、グローバル化が加速するこれからの時代には、決して許されるものではありません。ほかの国でハラスメントと訴えられる可能性もあります。
本連載の1回目(「これもハラスメント!?その一線を越えれば、あなたのクビが飛ぶ?」)、2回目(「島耕作はほぼアウト!恋愛と勘違い、セクハラの境界線は?」)でも伝えましたが、ハラスメントがまん延するのは個人の問題だけではなく、それを許してくれた環境=周りの同僚や会社のせいでもあるんです。
実際、セクハラが原因で会社を追われてしまったある男性について、同僚だった人たちは口をそろえて「あの人は確かに、スケべなおじさんキャラだったけれど、決して悪い人ではなかったのにね」と擁護する声が多かったと聞いています。
しかし「あの人はそういうキャラだから」と周りが容認してきたことで、ブレーキを利かせるタイミングがなくなってしまって、結果的にセクハラは加速して、彼は会社を追われることになってしまった。
ハラスメントを放置することは、その人がパワーを持ったときにものすごくリスクになります。その人が重職に就いていたら、会社としても大きな損失になるはずです。
もし同僚にハラスメント気質の人がいるとしたら、できるだけ早い段階で注意してあげること。これが組織としてのリスクマネジメントにつながるはずです。
じゃあ、どこからハラスメントになるのか?
難しいのは、「どこからが深刻なのか?」という見極めです。懲戒解雇の基準は企業によって異なるということでしたが、何か参考にできるような基準はないのでしょうか。
白河:一つ、参考になる指標があります。米南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスのキャスリーン・ケリー・リアドン名誉教授が開発した「SSMW」という指標で、数百人の聞き取りをベースに作成された、セクハラ認定の客観的基準を考えるフレームワークです。
■職場におけるセクシュアル・ミスコンダクトのスペクトラム
1 | 概して侮蔑的ではない | ヘアスタイルや服装などについての日常的な発言 |
2 | 気まずくさせる/ 軽度に侮蔑的 | 女性に不利なジェンダーの違いに言及したり、暗示したりする発言 |
3 | 侮蔑的 | ジェンダーの違いに鈍感だったり傲慢だったりする態度 |
4 | 極めて侮蔑的 | 意図的に侮蔑する発言や行動 |
5 | 明らかなセクシュアル・ ミスコンダクト | 下品な行動、あるいは身体に実際に触る行動 |
6 | 重大なセクシュアル・ ミスコンダクト | 無理強い、性的虐待、または暴行を伴う言動 |
出所:キャスリーン・ケリー・リアドン 南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネス名誉教授、表は『ハーバード・ビジネス・レビュー』掲載の図をもとに編集部作成
白河:ヘアスタイルや服装に関する日常的な発言から、無理強いや性的虐待、暴力を伴う言動まで、セクハラのレベルを比較検証する上で、一つの物差しとして活用できると思います。
このように、セクハラに関しては海外の研究報告もかなり蓄積されているので、判断しやすい側面があります。
ただ一方で、「パワハラ(パワーハラスメント)」については「指導との線引きが難しい」と、積極的にすすめたがらない企業が多い。上司からの高圧的な指導によるパワハラは、縦社会で、転職しないメンバーシップ型雇用の問題に直結しています。粛々と上司に指導法を教えたり、部下の育成法をアップデートしていくしかないですね。
セクハラのある職場にはパワハラもある
白河:ただ一つ、私が確信しているのは、セクハラがある職場にはパワハラもあり、パワハラがある職場には、セクハラもある。つまり、同じ環境条件が生み出す結果だと思っています。
セクハラの加害者だけでなく、パワハラの加害者にならないよう、日常的に心がける必要があるのだということですね。
白河:セクハラがよくないことだという認知はかなり進んでいるので、「気をつけよう」という意識は広がってきていると思います。一方で、パワハラに関してはまだまだ無意識な人が多いですよね。
企業のハラスメント担当者に話を聞くと、最近はセクハラよりもむしろパワハラの通報が増えているそうです。「女性の部下に対して気を配っていたら、今度は男性の部下からパワハラを訴えられた」なんていうこともあるそうです。
セクハラが片方の一方的な好意から始まるのと同じように、パワハラも、権力を持つ人の一方的な“指導愛”から始まるというのが、よくある話です。
「お前のためを思って」と熱い指導をしていたつもりが、全く響かずに片思いで終わってしまう。「自分は結構いい上司として部下に慕われているつもりだったけれど、360度評価の結果は散々でショックだった」と落胆する人も少なくはありません。
時代の過渡期においては、自分が育てられた方法と同じように部下を育てようとすると、パワハラ認定されてしまうリスクもあります。
令和時代の上司の指導のあり方も変えないといけないですね。それにはコーチングやフィードバックなど最新の指導法の知識も必要です。立教大学の中原淳教授の『フィードバック入門』(PHP研究所)は事例も豊富で、実用的な本でオススメです。
(4回目は、2019年7月18日公開予定)
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