ビジョン、価値観をぶらさないために

玉川さんが経営者として自分自身の姿を投影するキャラクターは誰ですか。

玉川:役割的には嬴政なんだと思います。作中、嬴政は何度か自分の描くビジョンを語るところがあります。

 例えば、秦の国内でずっと権力争いを続けてきた呂不韋(りょふい)との論争では、嬴政は人間の本質を「光」と表現しています。また斉の国王との議論では、中華統一を実現するのは、どこか1つの国の王の力ではなく、あまねく中華を統治する「法」であると語ります。まさにビジョンを明確に打ち出していったわけです。

©原 泰久/集英社
©原 泰久/集英社

 企業経営をしていると、社長が社内外に向けてビジョンを示さなくてはならないシーンはたくさんあります。僕たちリーダーは、ビジョンとミッション、さらには会社のカルチャーなどと照らし合わせながら、意思決定をしていく。それが正しいことなのですが、迷うときもあります。

 特にソラコムは、完全にリモートワークを認めていますから、社員はどこで働いてもいいんです。エンジニアの中にはほとんどの時間を自宅で働く人がおり、営業担当は、客先に直行して、必要なときだけオフィスに寄るなどします。ただ、全員が顔を見ずにコミュニケーションするようになると、どうしても判断に迷うケースも出てきます。

 先ほど紹介した通り、僕たちは15個の考え方を軸に行動しています。この価値観や、ソラコムが掲げるビジョンの軸をぶらさないためにも、3カ月に1度は、全社員が集まって1〜2時間みんなで話す機会を設けているんです。

 その中でも僕が力を入れているのが、リーダーシップセッション。15個ある価値観の中で、この3カ月間を振り返って、例えば「Just do it」というリーダーシップを、一番体現したのが誰だったかということを全員で話し合うんです。

 実際に起こった物語を、「○○さんがこんなお客さんに会ったとき、こういう行動をしました。それがすごく“Just do it”だったと思います」と話してもらう。それに対してみんなが「それは“Just do it”だね」と語り合う。

 先輩や部下、同僚の行動を解像度高く観察していなければ、そして誰もがきちんと日々の行動を振り返っていなければ、こうした話はできません。それも実際に起こったファクトをベースに語るのだから、より難しいはずです。ただこれを繰り返すと、自分自身の気づきにもなるし、評価された人はフィードバックを受けることになるからうれしいはずです。

 大企業にはなくて、スタートアップが持っている大きな強みが意思決定のスピードです。これを高めるには、意思決定する上での価値基準を明確に持つ必要がありますよね。15の考え方というのがまさにそれで、この軸があれば、誰もがスピード感ある意思決定ができるようになるわけです。

 そしてこの意思決定を間違えないために大切なのが、軸をぶらさないということです。

 嬴政は絶対に軸がぶれることがありません。影響の及ぶ範囲が広がれば広がるほど、どうしても価値観は希薄化しやすくなります。それを避けながら、どう統治していくのか。嬴政と同じように、僕も軸をぶらさずに統治を広げていきたいですね。