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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載17回目に登場するのは、IoTプラットフォームを提供するソラコムの玉川憲社長。実は玉川社長は、会社員を辞めて創業する際、『キングダム』に背中を押されたことをSNSでつぶやいていたのだという。一体、何に影響を受けたのか、話を聞いた。

玉川 憲(たまがわ・けん)氏
1976年大阪府生まれ。東京大学大学院工学研究科修了後、日本IBMに入社し、基礎研究所で超小型コンピューターの開発に携わる。2006年より米国留学し、MBAとソフトウエアエンジニアリングの2課程を修了。アマゾンデータサービスジャパン(当時)に転職し、技術統括部長兼エバンジェリストとして活躍した後、2014年にIoTプラットフォームを提供するソラコムを創業。2017年8月にKDDIが大型買収を決めたことが大きな話題となった。(撮影/竹井俊晴、ほかも同じ)

本連載にも登場してもらった早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授から、玉川社長が『キングダム』のファンであると聞きました。

玉川氏(以下、玉川):僕はもともと、アマゾンデータサービスジャパン(当時)の会社員だったのだけれど、ソラコムを立ち上げるアイデアが湧いて、創業するかどうか悩んでいたとき、ツイッターでいろいろとつぶやいていました。このとき、このつぶやきの中で『キングダム』に触れているんです。

 これまで僕は外向きには、起業をした理由について、ピーター・ティール著『ゼロ・トゥ・ワン』(NHK出版)を読んで格好いいと思った、と伝えているんです。もちろんこれも本当です。

 ただ実際にはこのとき、『キングダム』をちょうど読んでいたんですね。『キングダム』では、ストーリーの冒頭からバタバタと人が死にますよね。それこそ主人公・信(しん)の唯一の家族と言える、幼なじみの漂(ひょう)も1巻で亡くなってしまう。その後、信は戦って百人将、三百人将と出世をするけれど、その過程でもたくさんの人が息絶え、信が最初に憧れた大将軍の王騎(おうき)も、比較的早い段階で亡くなりますよね。

 大切な人が次々に亡くなるけれど、信はそれでも、あらゆるリスクを取っていく。ここで勝負に出ると危ない、というときもいつも「ここでやらないとダメなんだ。なぜならオレは大将軍になるから」と果敢に挑戦する。その信の姿を見ていたら、「スタートアップを立ち上げて、たとえ失敗しても死にはしないよな」「だったらやろうかな」と思ったんです。

2015年2月5日に投稿したこのつぶやきですね。

玉川:そうです。このツイートを見れば分かるけれど、「スタートアップの理由—続き」と書いてありますよね。創業する理由の1つ目は先ほど触れた『ゼロ・トゥ・ワン』。もう1つが『キングダム』。それと最後に、僕は会社員時代、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)のクラウド事業立ち上げチームにいたのですが、このAWSができたおかげで、スタートアップがたくさん増えたんです。小規模な会社もクラウドサービスを簡単に使えるようになって、起業しやすい環境になった。つまり失敗しても死ななくなったわけです。

 そう考えると、創業の背中を押した3つのうち1つが『キングダム』だったことになる。結構、大きいですよね。

先ほど、『キングダム』では仲間が次々に亡くなっていくとおっしゃいました。それに背中を押されたのでしょうか。