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負け続きの飛信隊とスタートアップ「50人の壁」の共通点

柴山:1回目の質的な変化は、飛信隊のメンバーが初めて役割分担を始める瞬間にありました。スタートアップだとこれが「50人の壁」に当たります。

 スタートアップの「50人の壁」というのは、社員数が50人ぐらいになった時、それまでスタートアップの強みだったものが、突然弱みになるんです。社員20人ぐらいまでは、みんながあうんの呼吸で働いていた。誰が何をやるかも何となく雰囲気で決まるからスピーディーに意思決定が下せたわけです。自分たちが最初に考えたサービスが世の中にそのまま受け入れられない時には、いち早くサービスのあり方を見直すこともできる。

 そうやって「あっ、ここに熱量のあるユーザーがいるんだ」と見つけて、突破口を見いだし、急速に成長していきますよね。するとゼロを1にした後は、続いて、1を10に、10を100にしなくてはなりません。

 このタイミングで入社した人から見ると、社員20人の時代の意思決定は、ブラックボックスにしか見えません。疎外感も覚えるし、一体どうやって物事が決まっているのか分かりづらい。この頃から、意識的に情報共有をして、一人ひとりの役割を明確にする必要が出てくるんです。

 けれど、これがもともといたメンバーからすると、窮屈にも感じる。「今までうまくいっていたのに、なぜそのやり方を変えるんだ」と。元のやり方をそのまま続けていては成長に限界があるけれど、一方で、新しいやり方を取り入れようとすると、それまでの成功体験を1回壊さないといけない。ここで生じる組織の軋轢が、スタートアップの「50人の壁」です。

 『キングダム』でも50人の壁に近い現象が描かれています。それが、信と最初に伍を組んだ仲間の剣士・羌瘣(きょうかい)がある時、飛信隊から離れた時のことです。羌瘣が去った直後から、飛信隊は突然、負け始めるんです。人数は増えたのに突然負け始める。

 飛信隊では羌瘣が抜けるまでは、何となく羌瘣が作戦を考え、ほかの兵たちもあうんの呼吸でそれぞれに必要な仕事をしていました。けれど隊が大きくなるにつれ、それではうまく機能しなくなった。新しく作戦を考える人と、実行する人の役割分担が必要になったんです。

©原 泰久/集英社

 この時に、軍師として飛信隊に加わったのが河了貂(かりょうてん)です。

 河了貂が入った当初は、多くの兵たちが反発しましたよね。今までのやり方を変えることには強い反発が生じる。けれど、誰もが現状ではマズイという問題意識を持っていて、新しい組織の形にフィットしていく。よく描けているなと感動しました。