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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、キングダムを愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載15回目に登場するのは、家計簿アプリなどを提供するマネーフォワードの辻庸介CEO(最高経営責任者)。辻CEOは、主人公の信が率いる飛信隊のようなチームをつくりたいと語る。なぜ飛信隊がいいのか、話を聞いた。

辻 庸介(つじ・ようすけ)氏
1976年大阪府生まれ。京都大学農学部を卒業後、ソニーに入社。2004年にマネックス証券に出向し、その後で転籍。2009年には米ペンシルベニア大学ウォートン校にMBA留学。卒業時は全12クラス中、米国人以外で唯一の、クラス代表に選ばれる。日本に帰国した後は、マネックス証券のCOO(最高執行責任者)補佐、マーケティング部長を経て、マネーフォワードを起業、代表取締役社長CEO(最高経営責任者)に就任。(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

辻社長は『キングダム』を繰り返し読んでいると聞きました。

辻社長(以下、辻):最初に手に取ったのは、2011年にペンシルベニア大学ウォートン校から戻った頃から読み始めています。マネーフォワードを起業したのが翌年の2012年。最初は『キングダム』の主人公・信(しん)が5人のチーム「伍」からスタートしたように、僕たちマネーフォワードもたった6人の門出でした。

 先日もビズリーチ社長の南壮一郎さんと話していたんです。「僕たちってメディアで取り上げていただいたりするけど、しょせんはまだ五百人将だよね」と。信が兵を率いて敵の将軍・馮忌(ふうき)を初めて討ったのが、百人将の頃。その後「飛信隊(ひしんたい)」という名前をもらって、ようやく正式に部隊となった。

 あの頃より少しだけ大きな規模の企業を僕たちは率いている。ただ秦国の大将軍に君臨していた王騎(おうき)たちと比べると、まだまだ足元にも及びません。

 大将軍になるべく、最近僕が力を注いでいるのは、いかに将軍クラスの人物に来てもらうか、ということです。特定の部署やプロジェクトの一切を委ねますから、イメージとしてはまさに将軍です。そして、それぞれの将軍には、自由裁量で任せた部署やプロジェクトを自在に動かしてもらいたい。

 フィンテックのような変化の激しい業界で、すべての意思決定を経営者が下すのは不可能です。それぞれのチームに権限を委譲し、仕事を任せた責任者がどんどん意思決定していく。

 僕の仕事は、仕事を委ねられる将軍を見抜くことです。言い換えればそれは、彼らの能力に見合った課題をどう与えるかということでもある。

 例えば難易度150の課題を、能力100のリーダーに委ねるのは経営者の判断ミスです。権限を委譲しても、決してうまくはいかないですし、みんなが不幸になるだけです。

 ベストなのは、難易度110の課題に対して、能力100のリーダーに仕事を任せて成長させること。今までよりも少し挑戦できる環境に置くと一番うまく回るように思います。『キングダム』でも大将軍の王騎は、主人公の信が成長するのにぴったりの、少しハードルの高い課題を与えて成長させましたよね。まさに、経営者に問われるのは、こうした「出題力」なんだと思います。

(©原 泰久/集英社)

:もちろん、課題を与える際には、それぞれのリーダーのパーソナリティーもしっかりと見極めます。それも僕は、その人の能力以上に、混沌とした状況に耐えられるかというストレス耐性許容度の方が大切だと思っています。