起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載10回目に登場するのは、個人投資家としても著名な千葉功太郎氏が主催する起業家向けのコミュニティー「千葉道場」に参加する経営者の中でも、特に『キングダム』が好きな5人の若手起業家たち。普段から多様な課題に直面し、挑戦を重ねる起業家たちは、『キングダム』の何に影響を受け、励まされてきたのか、話を聞いた。

 参加したのは、オーダースーツ販売FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)の森雄一郎CEO(最高経営責任者)、公共施設や店舗のWi-Fi接続アプリを手掛けるタウンWiFiの荻田剛大CEO、日本最大級の留学サイトを運営するSchool With(スクールウィズ)の太田英基CEO、AI(人工知能)を活用した人と組織の相性が見えるサービスを提供するミツカリの表孝憲代表、そしてホテル経営の分析などを手掛ける空(そら)の松村大貴CEO。(構成/井澤 梓)

左から、オーダースーツ販売FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)の森雄一郎CEO(最高経営責任者)、公共施設や店舗のWi-Fi接続アプリを手掛けるタウンWiFiの荻田剛大CEO、日本最大級の留学サイトを運営するSchool With(スクールウィズ)の太田英基CEO、AI(人工知能)を活用した採用担当者と応募者のマッチングシステムを提供するミツカリの表孝憲代表、ホテル経営の分析などを手掛ける空の松村大貴CEO(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)
左から、オーダースーツ販売FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)の森雄一郎CEO(最高経営責任者)、公共施設や店舗のWi-Fi接続アプリを手掛けるタウンWiFiの荻田剛大CEO、日本最大級の留学サイトを運営するSchool With(スクールウィズ)の太田英基CEO、AI(人工知能)を活用した採用担当者と応募者のマッチングシステムを提供するミツカリの表孝憲代表、ホテル経営の分析などを手掛ける空の松村大貴CEO(撮影/竹井 俊晴、ほかも同じ)

今回は『キングダム』を普段から愛読している若きスタートアップ経営者の方々に集まっていただきました。皆さんが、『キングダム』をどのように読み、普段の経営に役立てているのか。お話を聞かせてください。

ミツカリの表孝憲代表(以下、表):『キングダム』で描かれている世界と、僕たちが普段直面している状況は、そっくりです。ヒト、モノ、カネ……。経営にはこの3つのリソースが必要と言われますが、スタートアップ経営はこのどれもが不足していることが多い。普段から頭を抱えることも多い。

 同じように『キングダム』に登場するキャラクターたちもしょっちゅう危機に直面し、そして果敢に乗り越えようとする。そんな姿を見ていると、「ああ、これでいいんだな」と励まされるんです。

 例えば、主人公の信が仕える秦の国王・嬴政(えいせい)は、誰も信じてくれないような時期から、「中華を統一する」というビジョンを掲げていました。根拠や“べき論”に振り回される必要はない。ビジョンは独善的でもいいんだ。そう思えるようになりました。

FABRIC TOKYO(ファブリックトウキョウ)の森雄一郎CEO(以下、森):嬴政が、中華統一のビジョンを最初に語ったのは、確か14歳くらいだったはずです。

 普通、子供の頃の夢は大人になると諦めてしまいますよね。でも嬴政は、「無理かも」なんて疑わず、夢を掲げ続けてきた。それはすごいですよね。

 スタートアップを経営していると、「自分がこんなに壮大なことを言ってもいいのかな」って躊躇(ちゅうちょ)する瞬間があるんです。それでも自分を信じて、関係する取引先や投資家、お客さまを巻き込んでいかないといけません。

 どれだけ味方を増やしていくか。それがとっても大切なんですね。そう考えると、秦の国とはライバル関係にある趙の国の将軍・李牧(りぼく)にさえ、「あなたのような王に仕えたかった」と言わせてしまう嬴政は、本当にすごい。僕の事業で言えば、ライバルと一緒にマーケットをつくっていく感覚に似ているのかもしれません。

:経営者って、仲間をつくること以外に仕事がありませんしね(笑)。

タウンWiFiの荻田剛大CEO(以下、荻田):僕も嬴政が好きですね。彼は連載が回を重ねるごとに、どんどんと成長していきます。学生起業家たちは、「(ソフトバンクグループの)孫正義さんを目指します!」ということを簡単に言いますよね。けれど、現実の壁に直面すると、だんだん無理だとか大変だとか思ってしまう。その点、嬴政は14歳でビジョンを掲げてから、それをかなえる方法を模索していきます。途中で弱音を吐いたりしないし、諦めたりもしない。

 僕は、もともと「ケータイの通信制限を解消したい」と思いから、今の事業をスタートしました。けれど最初の頃はなかなかうまくいかなくて、事業を方向転換することを迫られました。

 この時、自分は単なる商品やサービスの開発者から、1人の経営者になれたと実感できたんですね。最初に掲げたビジョンをかなえるために、山の登り方を変えた。最初に考えた山の登り方に固執せず、最終的なビジョンのためには、柔軟に手段を変えてもいいんだ。そう思えるようになったわけです。それはとてもうれしかったですね。

皆さん、『キングダム』の中で自分に似ていると感じるキャラクターはいますか。

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