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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載9回目に登場するのは、個人のスキルを売り買いするフリーマーケットサイトを運営するココナラの南章行社長。『キングダム』には作中、いくつもの名台詞(せりふ)が登場する。中でも兵の士気を高めるリーダーの言葉は、南社長にも大きな影響を与えたという。どんな言葉だったのか、話を聞いた。

南章行 (みなみ・あきゆき)氏
ココナラ社長。1975年生まれ、名古屋市出身。慶応義塾大学を卒業後、1999年、住友銀行(現三井住友銀行)入行。2004年に企業買収ファンドのパイオニア、アドバンテッジパートナーズ入社。2009年に英オックスフォード大学経営大学院(MBA)修了。現地で出合った「音楽を使った若者向け社会起業プログラム」ブラストビートの日本法人(NPO)設立を主導したほか、オックスフォードの同期が設立したNPO法人「二枚目の名刺」の立ち上げに参画。個人の自立・自律をサポートする活動に積極的に参加する。東日本大震災をきっかけにアドバンテッジパートナーズを退社し、自ら代表として株式会社ウェルセルフ(現ココナラ)を設立。知識・スキル・経験のオンラインマーケットプレイス「ココナラ」を運営する。(撮影/古立 康三、ほかも同じ)

南社長は、オフィスの机に『キングダム』の単行本を置いているそうですね。

南社長(以下、南):スタッフの女性が『キングダム』が好きで、みんなにも読んでほしいと全巻をオフィスに持ってきたんです。それで、みんなが1日1冊ずつ読むようになって、僕の机の前に『キングダム』がだーっと並んでいるんです。うちの公式文書ですね(笑)。

 『キングダム』はベンチャー経営者の心にすごく刺さります。経営にはうまくいっている時とピンチの時があって、ピンチでどう振る舞うかはとても大事な問題です。ハードシングス(困難)に直面したとき、リーダーとして何をするのか。『キングダム』にはそのヒントがふんだんに描かれています。

ピンチの時、南さんが読み返したシーンはありますか。

:印象に残る好きなシーンはいくつかあります。特に印象深いのが、秦の国王、嬴政(えいせい)のスピーチでしょうね。

 ある時、秦は周辺6カ国(韓、魏、趙、燕、楚、斉)から一斉に攻め込まれます。6カ国の合従軍を相手に攻防戦を繰り広げますが、窮地に立たされる。

 この時、嬴政は戦争の勝敗を握る小さな城、蕞(さい)に足を運ぶんです。そして、城に残った負傷兵や女性や子供、老人たちに向かって語りかけ、戦意を奮い立たせるんです。

 もともと蕞の民衆は、投降するつもりでいたはずです。男たちは戦争に出払っているのに、敵の大軍が押し寄せてくる。どうしようもありません。民たちは意気消沈していて、「完全に終わったな」と思っていたでしょう。

 そんなところに、国王である嬴政がやってきて、「秦の国は、オレたちが守るぞ」と奮起させる。嬴政の言葉に、子供が立ち上がり、負傷兵が起き上がり、女性たちも「弓矢ぐらいなら撃てます」となっていく。