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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載8回目に登場するのは、個人投資家に人気の「ひふみ投信」を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。金融業界の中でも読書家として知られ、幅広い漫画を愛読する藤野氏が見る『キングダム』の魅力とは何か。今回は金融のプロとしての観点からも『キングダム』の読みどころを聞いた。


藤野英人(ふじの・ひでと)氏
レオス・キャピタルワークス株式会社代表取締役社長・最高投資責任者。1966年富山県生まれ。国内・外資大手投資運用会社でファンドマネージャーを歴任後、2003年独立・創業。主に日本の成長企業に投資する株式投資信託「ひふみ投信」シリーズを運用。明治大学商学部兼任講師、JPXアカデミーフェロー、一般社団法人投資信託協会理事。(撮影/竹井俊晴、ほかも同じ)

藤野さんは、どのようなきっかけで『キングダム』を読むようになったのでしょうか。

藤野社長(以下、藤野):3年くらい前から読み始めました。確か、(現在、立命館アジア太平洋大学学長の)出口治明さんが、SNSで『キングダム』について語っているのを見て、読んでみようと思ったんです。

 僕はもともと中国の歴史モノがすごく好きなんです。『三国志』『水滸伝』『史記』『項羽と劉邦』……何度も繰り返し読んでいます。

 中国の歴史モノは、描かれる人物の思惑と大義が入り乱れながら、それぞれが武力と知力の限りを尽くして戦い、成果を出します。それは、将棋や投資の世界にも通じる部分がある。

藤野さんの専門分野である「投資」にも通じる部分があるのでしょうか。

藤野:もちろんです。投資とは結局、多くのものが複雑に、それも色々な思惑を持って動いているところをどう捉えるかということです。そう考えると、中国の歴史モノには投資的な視点がふんだんに盛り込まれています。

 例えば『キングダム』の主人公・信(しん)は物語の冒頭で、秦国の宮廷で義弟のクーデターに遭った王・嬴政(えいせい)を守ります。これは命を懸けた投資とも言えるでしょう。

 嬴政の可能性に懸けて彼を支えたことで、信は見事に宮廷から義弟を追い出し、「天下の大将軍になる」という夢の足がかりをつかみます。まるで超割安株に投資したら、それが何倍にもなったような話でしょう。

 その後、信は一兵卒からスタートして百人将になり、千人将になっていく。彼自身が成長を重ね、仲間を得、チームを組み、兵を従え、育てながら大きくなっていく。そういう意味では、信もベンチャー起業家のような存在だと言えます。

 挑戦し、勝利し、成果を上げて、次のステージに進む。『キングダム』には少年漫画の必須要素といわれている「友情・努力・勝利」がすべてそろっている。幅広い年代に受けるのは、こういった部分があるからでしょうね。

藤野さんご本人が、自分に近いと感じる将軍はいますか。