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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載7回目に登場するのは、工場直結のファッションブランド「ファクトリエ」を展開するライフスタイルアクセントの山田敏夫社長。華やかなイメージのあるアパレルの世界と、武将たちが戦争を繰り広げる『キングダム』の世界は、一見すると関連性が薄いように感じる。だが経営者と兵を率いる将軍たちの間には、「人を束ねる」「人を率いる」という共通点がある。『キングダム』を通して、山田社長はどんなリーダーシップを学んでいるのだろうか。

(構成/井澤 梓)

山田敏夫(やまだ・としお)氏
1982年熊本県生まれ。大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル(現SBヒューマンキャピタル)へ入社。2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。2012年、ライフスタイルアクセントを設立し、同年にメード・イン・ジャパンの工場直結ファッションブランド「ファクトリエ」をスタート。2014年中小企業基盤整備機構と日経BP社との連携事業「新ジャパンメイド企画」審査員に就任。2015年経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。年間で訪れるモノづくりの現場は100を超える。(撮影/竹井俊晴、ほかも同じ)

山田さんは、古くから『キングダム』のファンだと伺いました。ベンチャー経営者の間で『キングダム』は非常に人気ですが、山田さんが作品から影響を受けた点があれば教えてください。

山田社長(以下、山田):確かに『キングダム』は好きで読んでいるんですが、それが自分の経営にどう生きているのか、考えたことはありませんでした。

 ただ改めて問われて、最近の僕の経営判断を振り返ると、『キングダム』のいくつかのシーンに背中を押されたのかな、と思うことがあります。

 例えば、主人公の信(しん)はある時、もとは野盗の親分だったという異色の経歴を持つ将軍・桓騎(かんき)の下で戦うことになります。この時、信の率いる部隊「飛信隊(ひしんたい)」の古参兵・尾平(びへい)は、桓騎軍の兵たちと行動を共にしていました。

 桓騎は野盗出身というだけあって、戦争中に訪れた敵の村で焼き打ちや略奪を繰り返します。そしてこの時、たまたま飛信隊の尾平も、略奪した村の老婆が落とした宝石を受け取ってしまいます。

 長く飛信隊の仲間として戦ってきた尾平が、桓騎軍の兵にそそのかされたとはいえ、略奪に加担してしまった。

 この事実を知った信は、激怒します。そして「二度と飛信隊(うち)に戻ってくるな」と、尾平を隊から追い出します。

 このシーンは、非常にピュアでいいなと思いました。