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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4500万部を突破し、この春には映画化もされた。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、『キングダム』を愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載6回目に登場するのは、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授。経営学を専門にする入山教授は『キングダム』をどう読んでいるのか。そしてなぜ起業家や経営幹部など、経営に携わる人の多くが、『キングダム』を愛読しているのか、話を聞いた。

入山章栄(いりやま・あきえ)氏
1996年慶応義塾大学経済学部卒業。1998年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2003年に同社を退社し、米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学。2008年に同大学院より博士号を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタント・プロフェッサー(助教授)に就任。2013年に早稲田大学ビジネススクール准教授、2019年4月から早稲田大学ビジネススクール教授。専門は経営戦略論および国際経営論。(撮影/鈴木愛子、ほかも同じ)

入山先生はこれまで、様々なメディアで漫画『キングダム』が面白いと発信してきました。なぜビジネスパーソンの中でもとりわけ経営者や起業家が、『キングダム』に熱中するのでしょうか。

入山氏(以下、入山):『キングダム』が本当に経営の参考になるかどうかは分かりません。けれど、経営者やビジネスパーソンにとっては、とても共感できる内容なんだと思います。

 そもそも、これまでもビジネスパーソン向けの経済誌などでは、戦国武将の特集が組まれてきましたよね。「あなたは信長派?信玄派?」みたいな特集を、年配の方なら、覚えているはずです。

 男性は、基本的にはこういったテーマが大好きです。日本であれば戦国時代。武将が群雄割拠して、天下を統一しようと、織田信長のようなクレイジーな武将が出てきたり、殺されたりする。ただ、今の時代に日本の戦国時代の話をするのも少しダサい雰囲気があるのかもしれません。

 「オレは信長派だ」「自分は家康タイプだ」とはなかなか言いづらい。それで、これまでだと中国に視点を移して、『三国志』などが語られてきたわけです。

 我々の世代は、横山光輝さんの漫画の影響などもあって『三国志』も随分と語り尽くされてきました。なので今、「やっぱり曹操より呂布だよね」といった会話をすると、確かに日本の戦国時代よりは恥ずかしくないけれど、少し古臭い印象がある。

 その点、中国の歴史の中でも、春秋戦国時代の、ものすごい群雄割拠の中から、秦の始皇帝が中華を統一するところまでの歴史は、事実としては知られているけれど、「物語」はあまり知られていません。つまり、あまり“手垢(てあか)”が付いていない。

 だからこそ、春秋戦国時代が舞台の『キングダム』は新鮮だった。そういった背景もあるのではないかと思っています。

 やはり強い者たちが群雄割拠して、天下を取るために戦う戦国時代って、一番興奮しますよね。いろいろなキャラクターがいて、それぞれが自分の強みを生かして戦っていく。まさに今のベンチャー起業家たちの世界は、完全に戦国時代。だからこそ、自分の姿と重ね合わせやすいんだと思います。

 実際、私の周りの起業家も「自分は王翦(おうせん)型」とか、「将軍の桓騎(かんき)に憧れる」とか、そんな話ばかりしていますよ(笑)