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乃村:僕はもともと住宅業界の営業出身で、建売住宅を販売することからスタートしました。その後も営業力を生かして、嗅覚や感覚、行動力で戦ってきたんです。それこそインタビュー前編でお話しした将軍・桓騎(かんき)のように、奇想天外なマーケティング力で勝負してきましたし、その世界で僕は結果を残すことができた。

 けれど今、手掛けている住宅向けのIT事業はサービスを1つずつ積み上げて勝ちに近づいていくものです。これまでのようなアイデア一発勝負ではなくて忍耐力が必要になります。経営でも、僕1人のアイデアで引っ張るのではなく、商品を開発するにはチームワークが大事になります。

 「住宅」という対象は同じだけれど、それを「売る」のとサービスを「開発する」のは全く違う仕事なんだと、最近ようやく気付きました。

 ITサービスの開発は、すぐには結果が出ないことばかりです。

 ただ逆に考えれば、地道な積み上げが自社の優位性になっていく。僕たちが半年や1年かけて積み上げてきたことは、そのまま参入障壁になって、ライバル会社との差別化要因になります。

 僕のように、これまで今日の打ち手で明日の結果を出してきた経営者にとっては、待つことがしんどい。今はその思考回路を根底から入れ替えている真っ最中なんです。

 しんどくはあるのだけれど、今までにない発想を形にできるITサービスの設計は楽しくて仕方ないです。見えなかった視界が急に開けていくような新しい経験もありますから。人間は、いくつになっても成長できるのだなと、改めて感じています。

「兵の数」=「予算」と考えよ

乃村:『キングダム』では戦争の勝敗を分ける1つの目安として、兵の数の差が論じられますよね。僕は「兵の数」を現代の経営に置き換えると、「予算」だと思っています。例えば、3000の兵が、1万の兵の軍を打ち砕くというのは、わずか3000万円の予算で、1億円以上の価値の商品やサービスを生み出すことではないかと思っています。

 世の中には、1億円を投じても、結局何も残らなかったという事業もたくさんあります。将軍が兵を、適切な時期に、適切な位置に、適切な配分で、配置するからこそ勝利を手にすることができる。

 『キングダム』の中では秦国の若い将軍が、たった5000の兵で、3万もの敵の軍隊と戦うシーンがあります。これを戦争ではなく、マーケティングの予算と考えてみましょう。

 限られた予算をポスティングやウェブ広告に使うこともできれば、SNSでバズらせて、一発当てることもできるはずです。つまり5000万円の予算でも、3億円を投じたライバルに勝つ余地は、十分にあると分かるでしょう。

 もちろん、少ない予算で勝つには綿密に練られた策が必須になる。けれど、必ずしも「兵の数」、つまり資金力がすべての勝敗を決めるわけではないんです。

 つまり予算の限られたスタートアップ企業でも、戦略次第では勝つことができる。『キングダム』はそれを示してくれている。だからこそ励みにもなるし、スタートアップ経営者に人気なのだとも思います。

ほかに王翦から学んだことはありますか。