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 起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4000万部を突破し、この春には映画化もされた(映画『キングダム』)。

 中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。

 兵を率いるリーダーシップ、数千人、数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など――。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。

 本連載では、キングダムを愛読する起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのか聞いた。

 連載3回目に登場するのは、複業研究家の西村創一朗さん。「二兎(にと)を追って二兎を得られる社会をつくる」というメッセージを掲げて、副業ならぬ“複業”プラットフォーム「HARES」を運営する西村氏は、学生時代から『キングダム』を愛読していたという。会社員を経て独立した後、作品から数々の学びを得ている。インタビューの前編では、作中で重要な役割を果たす大将軍・王騎(おうき)から学んだマネジメント術について聞いた。

(構成/井澤 梓)

西村創一朗(にしむら・そういちろう)氏
HARES代表取締役 1988年生まれ。首都大学東京卒業後、リクルートキャリアに入社し、法人営業・新規事業開発・人事採用を担当。本業の傍ら、自身の会社HARESを設立し、パラレルキャリアの実践と普及を促進する個人・企業向けコンサルタントとして活躍する。2017年に独立。経済産業省「我が国産業における人材力強化に向けた研究会」委員(2018 年3月まで)。著書に『複業の教科書』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。(撮影/古立 康三、ほかも同じ)

西村さんが『キングダム』を読み始めたのはいつでしょう。

西村氏(以下、西村):『キングダム』に出合ったのは大学生の頃でした。当時は単純に、面白い漫画だなあと思って読んでいました。けれど、会社員を経て経営者になった今、『キングダム』が素晴らしいマネジメントの教科書であると感じるようになりました。

 『キングダム』の中でも、僕の大きな学びになっているのが、部下や後輩の育成シーンです。特に主人公の信(しん)が、憧れの大将軍・王騎(おうき)に育てられていく過程はとても印象的です。

 王騎は、「天下の大将軍になりたい」といった夢を抱く信が、初めて具体的に憧れた大将軍です。そして信の成長過程において、王騎はその時々で、重要なミッションを与えています。

 例えば、信がまだ100人の兵を率いる「百人将」だった頃のこと。王騎はある戦争で、信に重要なミッションを与えました。戦局を有利に運ぶために、たった100人の部隊で、間隙を突いて、2万の兵で戦う敵の副将・馮忌(ふうき)の首をとってこい、と命じたのです。

 「どさくさに紛れて馮忌の首をとってきて下さい!」と。

©原 泰久/集英社

 王騎の任務を、信はかろうじて達成します。ただ改めて読み直してみると、これは王騎が信に与えた「成功体験の演出」だったんだと気づいたんです。信に、あたかも自分の力「だけ」で馮忌を討ったと思い込ませて、信を覚醒させた。

実際にストーリーの中では、馮忌を打てるかどうかというギリギリの局面のように感じました。

西村:成功できるかどうか分からないことが重要なんです。挑戦する前から「これは間違いなく成功する」と分かっていたら本人の成功体験にはなりません。

 成功するかはギリギリかもしれない。戦場では「失敗」は「死」に直結しますからリスクは非常に高い。それでも王騎は、可能な限り、信の成功確率が高くなるようにお膳立てしています。そこがキモなんです。こういった成功体験を、部下や後輩にさせることが人材育成ではとても重要です。