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仲間や理念で選ぶ若者たち

麻野:なぜ那貴は、桓騎軍から飛信隊へ移ったのか。それはきっと、飛信隊の仲間たちや理念を好きになったからだと思うんです。

 これは、現代の組織論に近いと思いませんか。今の社会を見てみると、特に若い世代は、単に給料や昇進のためだけに働いているわけではありません。それよりも重視しているのが、仕事のやりがいや、共感できる未来。そういったエンゲージメント(絆やつながり)を軸に働くようになっているわけです。それを如実に表現したのが、那貴のシーンです。

 那貴が「飯がうまい」と言うと、桓騎は「うん?」という表情になります。この桓騎の表情にこそ、日本企業のマネジメント層はこれから、向き合わなければいけないんです。

 どんなに大企業でも、人気職種でも、あっさりと退職願を出してマイナーな会社に転職していく若者たちが増えています。彼らの姿に、40代以上のマネジメント層はきっと「うん?」と思っているはずです。

 うちの会社にいたら毎年給料も上がるし、昇進もできる。それなのになんで、未来が約束されていない会社に行くのか。ほとんど理解できず、不可解に思ってしまう。

 将軍・桓騎と那貴のすれ違いは、日本企業のマネジメント層と若手の間でもう起こっている。そんな日本企業のありようが『キングダム』でも描かれているんです。

飛信隊は100人の組織からスタートしていますが、それが300人、500人、1000人、5000人と増えていっても、カルチャーが変わることはありません。それはリーダーである信の影響が大きいのでしょうか。

麻野:飛信隊のメンバーがみんな生き生きしているのは、信が完全ではないからです。特集「キングダム経営学」の初回に登場した楽天大学の仲山進也学長も、「『キングダム』主人公が実践!最強の『引っ張らない』リーダーシップ」で解説していたように、やはり完全なリーダーは、意外とメンバーの力を生かさないと僕も思っています。

 リーダーが不完全だからこそ、メンバーの能力や個性が生きる。リーダーの弱みをメンバーの強みで補うことで、みんなが生き生きと働けるんだと思います。