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「王翦と同じように僕も君を信頼している」

麻野:王翦と同じように、僕も仕事を任せたプロダクトマネジャーを信じている。だからこうアドバイスをしました。

 「僕は、君が絶対にできると信じている。僕がいると何となく頼ってしまうけれど、僕がいなければ君の中にあるまだ発揮されてない力が必ず覚醒する。だから頑張れ」「朱海平原で戦う信や王賁と一緒だ」

 『キングダム』の「あのシーンのように」と話すと、聞いている方もイメージがわきやすいですよね。そして僕の思いも誤解なく伝わっていく。決して意地悪をしているわけじゃなくて、部下を信じているからこそ、彼のまだ目覚めていない才能が覚醒するのを待っているんだ、と。

 これは一例ですが、うちのオフィスでは『キングダム』を例に挙げた会話が、ポンポン出てきます。

豊かさよりも「うまい飯」

麻野さんはチームビルディングや組織づくりのプロフェッショナルでもあります。その観点から見て、『キングダム』で参考になるポイントはありますか。

麻野:チームビルディングという意味で非常に印象深かったのは、秦の将軍・桓騎(かんき)に仕えていた部下の那貴(なき)が、主人公・信の率いる飛信隊へ移りたいと、桓騎に伝えるシーンです。

 「飛信隊に移る」という那貴に、桓騎は「理由だけ教えろ」と問います。那貴はそれに「飛信隊(あっち)で食う飯ってうまいんスよね」と答える。

©原 泰久/集英社

麻野:桓騎という将軍は、もとは野盗の頭目で、将軍になるまでは南方で非道の限りを尽くしていました。将軍になった後も、軍の率い方や戦い方は独特で、道徳に反するようなことでも、それが必要なら躊躇(ちゅうちょ)なくやってしまう、冷徹で非道な将軍でもある。

 ただ、兵の労には褒美(ほうび)で報いるタイプでもあって、戦いで勝利を収めた土地の住民たちから、食糧や金品などを略奪することを、兵に許していたりもする。野盗らしい価値観ですよね。つまり桓騎軍の兵は、戦争に勝ちさえすれば食べるものにも金品にも困らない。

 対して、信の率いる飛信隊は、たとえ戦争で勝っても、負けた土地の住民たちから略奪することを禁じています。品行方正だけれど、桓騎軍のように略奪を許してはいないので兵が豊かになることはありません。

 それなのに、なぜ那貴は桓騎軍から飛信隊へ移るのか。