凸凹が明確な信のリーダーシップ
仲山:今回持ってきたのが、『キングダム』の12巻です。恐らくこのシーンは、このシリーズでほかの人だと誰も取り上げないと思うんです。こんなシーンに付箋を貼っている人はいないはずです(笑)
ただチームづくりの視点で見ると、とても参考になる。このシーンなんですが……。

仲山:このおじいさん(魯延=ろえん)は、飛信隊のただの老兵で、たぶん偉くはありません。彼が、戦闘中に旗色が悪くなったところで副将に声をかけるんです。「このままここで戦っていてもらちがあかんぞ。そこでじゃよ……」と。
副将の渕(えん)さんは彼のアイデアをすぐに採用して、リーダーの信に伝えに行きます。まさにこれが、飛信隊のフラットな様子を象徴しています。
仮に信が、すべてを引っ張る「完璧なリーダー」であれば、誰もこんなアドバイスは届けないし、聞き入れもしないでしょう。こんなシーンは、ほかのどの部隊にも見られません。破天荒なキャラを除くと、ほぼみんなヒエラルキー通りの振る舞いをしています。
作中では、個性こそ違いますが「完璧なリーダー」にぴったりの将軍ばかりが登場しています。
仲山:すべて自分で考えて判断し、指令するスタイルですよね。だから「キングダムからリーダーシップを学ぼう」と言われると、「あなたもこんな完璧なリーダーになりなさい(ただし、タイプは自分好みの人を選んでいいよ)」という意味だと受け取るのも無理はないと思います。ただ僕は、そんなふうに読むだけではもったいないと思うんです。
むしろ、完璧でない信の姿にこそ、リーダーのあり方やチームづくりの理想が描かれている、と。
仲山:はい。チームづくりについて言えば、重要なキーワードとなるのが「心理的安全性」です。
米グーグルが実践して有名になった心理的安全性。チームの中で自分の思ったことを自由に発言しても不利益を被らない、と感じられることですね。
仲山:信の率いる部隊「飛信隊」は、心理的安全性が高いんです。なぜかと言うと、信が「凹をさらしている」からです。
信の凹、つまり欠点は明確ですよね。ロジカルシンキングができないので、理詰めの作戦は立てられない。その代わりに凸も明確で、本能型の戦闘にはめっぽう強い。
圧倒的な凸がありつつ凹を隠そうとしないからこそ、周りのメンバーが自分たちの凸で、信の凹を埋めてくれる。最初の頃は羌瘣が、その後は軍師の河了貂(かりょうてん)が作戦を練って、信の凹をサポートしてくれます。先ほどの老兵もそうでした。
これに対して、「完璧なリーダー」を志向するタイプの人は、凹をなるべく隠そうとしがちですよね。
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