古参社員だからこそ分かる渕さんの気持ち

ここまでビジネスパーソンが『キングダム』を通して何を学ぶのか、という点について教えてもらいました。一方で、仲山さん個人にとって印象に残る部分はどこだったのでしょうか。

仲山:主人公の信が率いる飛信隊の副長・渕さんがフォーカスされている川渡りのエピソードです。

【解説】

 渕は、飛信隊がわずか100人の頃から、副長としてリーダーの信や仲間たちを支えてきた古参幹部。信らが武功を挙げるたびに、飛信隊はぐんぐんと大きくなり、兵隊も増えていく。渕より武力や知略で優れる武将が飛信隊に続々と加わる中、それでも渕は、副長の立場にいた。

 ある戦争で、信と側近軍師の河了貂(かりょうてん)は、その戦いの勝敗を左右する重要なミッションを渕に託す。だがこの決断に、別のメンバーからは異議が出る。武力も知略も凡庸な渕に、重要なミッションを任せて大丈夫なのか、というのだ。だが信と河了貂は「渕さんが正しい人選だ」と反論。渕に重要な任務を委ねる。

 今回の任務に求められるのは人よりも優れた武力や知略ではなく、「責任感」であること。それに最も応えてくれるのが、古くから飛信隊を支えてきた渕であること。それを信らは確信しており、渕も、信の期待に応えてミッションを達成する。

©原 泰久/集英社
©原 泰久/集英社

仲山:僕は「楽天市場」事業に限ると最古参の社員なんです。入社した当時、1999年の楽天は創業から2年たったところで、社員はたったの20人でした。

 それがぐんぐんと成長して、能力値の高い“武将”たちが続々と入社してきます。

 普通、頑張って働いていればだんだんと役職が上がっていくと思いますよね。けれど急成長するベンチャー企業の古参社員にとって、「上司」は「自分の上に次々と入ってくる存在」という概念なんです。

 「社長—部長—平社員」という構図が、ある時から「社長—【役員】—部長—平社員」のように新しい役職ができて、誰かが転職で入ってくるわけです。エリートの“将軍”が中途入社する感じ(笑)。

 でも、どんなに能力が高くても、楽天に入ったばかりの頃はまだカルチャーフィットしきれていません。「こんな目標、無理じゃないか」とつぶやいている“将軍”がいたら、「できる方法を考えればいいだけですよ(ニコッ)」と伝えて、あきらめないで試行錯誤をし続ける。

 エリートではない雑魚であっても、長くいればそれだけで身につくものがあって、求められるときがくる。

 渕さんのシーンはまさにそれを表していますよね。だから泣けちゃう。

次ページ 老将たちが背負う人々の思いの“重み”