起業家から大企業の経営幹部、気鋭のプロフェッショナルらが愛読するベストセラー漫画『キングダム』(原泰久著、集英社)。累計発行部数は4000万部を突破し、この春には映画化もされた (映画『キングダム』)。
中国の春秋戦国時代を舞台に、類いまれなる武力を持つ戦災孤児の主人公・信(しん)が、中華統一を目指す秦の若き王・嬴政(えいせい)の下で、天下の大将軍を目指すストーリーに、多くのファンが魅了されている。兵を率いるリーダーシップ、数千人から数万人規模の兵をまとめる組織づくり、部下を育てる人材育成、そして戦略や作戦、戦術の練り方など。多くの学びが、『キングダム』には盛り込まれている。
本連載では、キングダムを愛読する起業家、経営幹部、プロフェッショナルらに取材。『キングダム』から何を学び、どう経営に生かしているのかを聞いた。
連載1回目に登場するのは、楽天大学学長の仲山進也氏。「楽天市場」の最古参スタッフであり、全国の楽天市場出店者から「がくちょ」として慕われる仲山氏は、チームビルディングやリーダーシップの専門家でもある。ビジネスパーソンが『キングダム』から何をどう学んでいるのか。インタビュー前編(「組織づくりから人材育成まで!『キングダム』こそリーダーの教科書だ」)、中編(「『キングダム』主⼈公が実践!最強の『引っ張らない』リーダーシップ」)に続き、後編では仲山氏が感情移入するシーンとその理由について話を聞いた。

1973年北海道生まれ。慶応義塾大学法学部卒業後、シャープに入社。1999年に、当時は社員20人ほどだった楽天に入社。初代ECコンサルタントとして、楽天市場出店者のECマーケティングをサポートする伴走役となる。2000年、出店者の学び合いの場として「楽天大学」を設立。商売だけでなく、チームビルディング、理念経営などを幅広く支援し、通称「がくちょ」として全国のEC経営者から慕われる。2007年より楽天で唯一の“フェロー風正社員”(兼業自由・勤怠自由)となり、2008年には仲山考材を設立。『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則――「ジャイアントキリング」の流儀』(講談社)、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)など著書多数(撮影/千倉 志野、ほかも同じ)
インタビューの中編(「『キングダム』主⼈公が実践!最強の『引っ張らない』リーダーシップ」)では、主人公・信(しん)のリーダーシップとチームビルディングから学べることについて解説しました。後編では人材育成や話し方のコツ、そして最後に仲山さんが最も感情移入するシーンについてお話をうかがいたいと思います。改めて、仲山さんがまとめた資料を紹介します。
仲山氏(以下、仲山):人材育成の観点では、主人公の信が憧れ、目標にもしている秦の六大将軍の1人、王騎(おうき)の姿勢と手法がとても参考になると思います。
王騎に憧れ、天下で最強の大将軍になって歴史に名を刻みたいから、修業をつけてくれと頼み込んできた信に対して、王騎は手取り足取り教えるようなことはしません。まずは「長年にわたってもめている無国籍地帯があるから平定してみせなさい」と谷に突き落としたんです。その「お題」によって、「人を率いることの難しさ」と「集(チーム)の強さ」を体得することを狙っているのです。
この時、たまたま信を王騎の元に連れていった渕(えん)さんと一緒に、信は4カ月かけて、そのエリアを平定しました。
すると王騎は、次の任務を信に授けます。今度は戦争の中で、ある将軍の首を取ってこい、というミッションでした。王騎は信にお題を与える時、現在の戦局や任務の意味合い、大事にすべき視点などを伝えます。
すなわち、趙の将軍・馮忌(ふうき)を倒すと、戦争全体がとても有利になる理由を説明します。加えて「側面より突入し、どさくさに紛れて馮忌の首を取ってきてください」と、その方法について1つだけ指示を与えています。その上で、後はもう任せた、と。
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