公的統計データなどを基に語られる“事実”はうのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。

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 2019年11月5日、参院国土交通委員会で初の質疑に挑んだ木村英子議員(れいわ新選組)が、車いす用トイレに十分な広さを確保するよう建築設計基準の見直しを求め、赤羽一嘉大臣もそれに応えるという一幕がありました。日本経済新聞も「トイレの面積基準見直しへ れいわ議員が初質問で要望」と題して報道しました。

 国会の議事録を読めば分かりますが、眞鍋純住宅局長の無難な答弁の後、わざわざ赤羽大臣が答弁に立ち「国交省の建築設計基準については(略)しっかり見直すように指示したいと思います」と述べ、一歩前進に至ったのです。

 理にかなった要求に対して、大臣が事務方に「指示した」と明言する。これこそ政治主導のあるべき姿なのではないかと胸に染み入りました。

 ところで木村議員の質疑で、私自身も初めて知った指摘がありました。とても重要だと感じたので、以下抜粋します。

昔は、公共施設とか駅に一般トイレしかなかったために、車椅子のマークの付いた障害者用トイレが造られていました。車椅子用トイレと言われた時代は、一般の方が利用することはほとんどありませんでした。しかし、その後、車椅子トイレにいろいろな機能を追加していったことで多機能トイレと呼ばれるようになり、多くの方が使えるようになった結果、一般のトイレを利用できない車椅子の人が使えなくて困ってしまっているという状況が生まれています。

 調べてみると、国土交通省も同じ危機感を抱いているようで「一般トイレを利用できる方が、多機能トイレを長時間利用することは控えましょう!」と題した啓発活動を行っています。健常者が「広いから」という理由で使ったり、中には多機能トイレ内で服を着替えたりする人もいるようです。驚きました。

国土交通省が制作した多機能トイレの利用方法についての啓発ポスター
国土交通省が制作した多機能トイレの利用方法についての啓発ポスター
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駅の多機能トイレの実態を足で調べて可視化してみた

 多機能トイレしか使えない人たちとは、車いす利用者、オストメイト(人工肛門や人工ぼうこうの保有者)、ベビーカー利用者、介助が必要な方などと大勢います。平成29年度福祉行政報告例によると、身体障害者手帳交付台帳登載者数は約511万人で、うち肢体不自由は約270万人、オストメイトは約21万人です。おむつが必要な0~2歳児は約290万人(総務省人口推計2018年時点)です。およそ約600万人ほどの人が該当するのです。

 しかしながら、東京都福祉保健局「平成28年度『都民の生活実態と意識』」によると、車いす使用者などの人たちは各種施設や設備の利用状況について、約3人に1人が「適正に利用されているとは言えない」と答えています。そういう状況に、少なからず遭遇しているのでしょう。

各種施設や設備が適正に利用されていないとする人は36.3%いる(出典:東京都福祉保健局「平成28年度『都民の生活実態と意識』」)
各種施設や設備が適正に利用されていないとする人は36.3%いる(出典:東京都福祉保健局「平成28年度『都民の生活実態と意識』」)
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 木村議員も取り上げたトイレ問題は「人権」にも関係する大事な話です。老人介護でも、排せつ介助への配慮を間違えると「尊厳を傷つける」と言われます。個人的な話ですが、以前、私は電車で移動中に我慢できず人前でウンコを漏らした経験があります。あの時ほどの惨めさ、恥ずかしさ、人間をやめたくなるつらさは、二度と味わいたくありません。排せつにまつわる問題は、重いのです。

 電車で移動中に駆け込めるトイレは、特に少ないですよね。駅舎の個室トイレ(大便器)は使用中のことも多く、汚くてくさい事もままあります。どこかの商業施設に向かおうにも、駅からは遠い……なんて話はよくあります。

 ましてや車いすで移動されている方が駅で使えるトイレは1つか2つ。おなかを壊した時に、誰かが服を着替えたいという理由で多機能トイレを使っていたとしたら……。私は、やるせない気分でいっぱいです。

 そこで今回は、駅舎の多機能トイレ・個室トイレの「可視化」に挑戦することにしました。

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