経済財政報告では「テレワークを積極的に取り入れている企業は労働時間が減少している」と労働時間に注目しており、労働生産性の向上の理由は、生産量の増大ではなく、時間削減効果によるもののようです。
もっとも、労働時間削減により、プライベートの活動時間が充実し、生活の質の向上につながる可能性もあるでしょう。労働時間が1%減少した場合、正社員が平日、育児、自己啓発、趣味、買い物に費やす時間がどの程度変化するのかも調べられています。これを見ると、特に、育児をする時間が増えるようです。これこそ2つ目のメリットである「QOL(クオリティー・オブ・ライフ)向上」です。
3つ目のメリットは「仕事満足度の向上」です。独立行政法人経済産業研究所の森川正之氏による「長時間通勤とテレワーク」によると、日本人約1万人を対象としたサーベイの結果、テレワークを行っている人は仕事満足度が高いとされました。つまり、労働者から見ればテレワークの導入は「歓迎される働き方」だと言えるでしょう。
ただし、これの先行研究においても、いくつかの懸念点が指摘されていました。
「テレワークは歓迎される働き方」への懸念
1つ目はそもそも当時の調査の対象となった「テレワーカー」自体がそもそも生産性の高い人で、最初から一貫して仕事満足度も高かったという可能性です。つまりテレワークが仕事満足度を高めるのではなく、仕事満足度が高い人がテレワークをしていたという見方です。
2つ目はそもそもテレワークは余力のある企業が実践できるものであり、導入していない企業と生産性を比べても意味がない可能性です。つまりテレワークが生産性を高めるのではなく、生産性の高い企業がテレワークを導入する傾向にあるという見方です。
3つ目は過去の連載で指摘したように、こうした統計で語られる“労働生産性”が「個人のアウトプット(成果)とインプット(かかった時間)のバランスの評価」ではないことにあります。
一般に、労働生産性の向上というと1人当たりの生産能力が向上しているように聞こえますが、実際には労働時間が減っても労働生産性は高まります。その場合、アウトプットが高まらなくても“労働生産性”は向上します。もっとも、労働時間の削減で、「あってもなくても成果につながらない仕事」をする余裕がなくなれば、無駄の削減(=労働生産性の向上)になると言えるかもしれませんが……。
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