西アフリカで、政治・経済的に優等生とされてきたガーナでの事件だったため、アフリカの統計品質が想定以上に低いのではないかという議論が起き、多方面から注目を集めました(「2010 Ghana GDP rebasing」も併せてご覧ください)。

 もっとも、程度の差こそあれ、先進国でも基準が変われば、アウトプットされる数字は変わってきます。例えば、最近勃興してきたUberやAirbnbなどのシェアリング・エコノミーはGDPの対象となっているでしょうか。残念ながら、現時点ではGDPに反映されていないようです。日本経済新聞には、20年度から、まずは民泊分を反映するという報道がありました(「個人シェア経済をGDPに参入」)。

 計測の対象とならない活動は、どれだけ経済を動かしたとしても、GDP上は「経済上何もなかった」ことになります。メルカリなどのC2Cサービス、デジタルエコノミー領域にはこうした測り漏れが無数にあるのではないでしょうか。

 国民経済計算の作成に携わる人たちも危機感を持っています。内閣府経済社会総合研究所が発行している「季刊 国民経済計算」の平成30年度第2号では「シェアリング・エコノミーのGDP統計への捕捉」と題した特集が組まれています。しかし、まずサービスが始まり、金が動き、ある程度の規模に成長してから計測するという流れは変わらないでしょう。

 もちろん、GDPを算出する元となる統計作業にミスがあれば、内容によってはGDPそのものに影響を及ぼす可能性があります。

 18年12月に発覚した、厚生労働省の「毎月勤労統計」不正調査問題により、GDPに使われる雇用者報酬の再推計が必要となり、平成29年度国民経済計算年次推計を修正・再提出する事態となりました。

 厚生労働省いわく「04~11年分の資料の一部を廃棄したためデータの再集計が難しい」そうで、そうなるとこの期間におけるGDPの正確さに疑念を持たれてしまい、景気判断だけでなく経済学の研究に悪い影響が出てきそうです。

誰も検証できない「数字」の正確さ

 2つ目は「正確性担保問題」です。

 19年12月9日に、GDPの「2019年7~9月期(2次速報)」が内閣府から発表されました。7~9月期の前期比成長率は「名目0.6%、実質0.4%」となりました。年率換算で1.8%増(実質)と、11月に発表された速報値0.2%から大幅に上方修正されました。しかし、私たちはその数字が正しいのか確認しようがありません。なぜなら計算式が非公開だからです。裏が取れないのです。

 もちろん、大まかな計算式は公開されています。ただ、国独自のカスタマイズや年単位での微調整が行われるため、エコノミストは数字の「確からしさ」を判断できないのです。特に日本経済は数%という低成長が続いているので、コンマ何%の違いも無視できません。

 中でも日本銀行は以前からGDPの精度に対して不信感を抱いてきました。日本経済新聞が18年11月に「政府統計、信頼に揺らぎ GDPなど日銀が不信感」と報道したように、日銀は個人消費の推計過程のデータを公開するよう強く訴えています。

 日銀は16年7月に「税務データを用いた分配側GDPの試算」という論文を発表しています。その中で、日銀が試算したGDPと内閣府が発表したGDPが最大で29.5兆円かい離しており、内閣府はGDPを少なく見積もっているのではないかと疑問を投げかけています(ちなみにこの試算は「毎月勤労統計」不正発覚前のものであり、現状はまた異なるかもしれません)。

 もちろん、計算式は非公開のため、論争に決着はついていません。

日本銀行が試算した実質GDP
日本銀行が試算した実質GDP
日本銀行の試算値では多くの期間で現行値のGDPを上回った。出典:日本銀行「税務データを用いた分配側GDPの試算」
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