研究会の資料によると、所得が生活保護の「収入要件」より低い低所得世帯は、全4802万世帯中597万世帯(12.4%)でした。
一方、「貯蓄が保護基準の1カ月未満で住宅ローン無し」という生活保護の「貯蓄要件」に当てはまる世代は229万世帯(4.8%)となりました。
当時の生活保護世帯は108万世帯ですから、所得要件のみで判定すると、捕捉率は15.3%(108万人/108万人+597万人)となります。資産要件のみで判定した捕捉率は32.1%(108万人/108万人+229万人)となります。これではいろいろな要件を加味した実際の捕捉率は分かりません。
貧困率が下がると捕捉率も下がる不思議
そんな中で、学術研究の一環として就業構造基本調査の「オーダーメード集計」を用いて、都道府県別の貧困率、ワーキングプア率、子どもの貧困率、生活保護の捕捉率を集計した論文を発表されたのが山形大学の戸室健作准教授です。
論文によると、全国の捕捉率(所得のみ)は92年14.9%、97年13.1%、02年11.6%、07年14.3%、12年15.5%と推移しています。10%台前半で推移というデータは日弁連が作成したリーフレットともだいたい合っています。
論文の中に掲載された都道府県別の貧困率と捕捉率で散布図を作製すると意外なことが分かります。
都道府県別に見て、貧困率も捕捉率もこんなに散らばっています。貧困率が高くてもしっかり捕捉している大阪に対して、ほぼ同じ貧困率なのに捕捉できていない宮崎。この差はいったいどこにあるのでしょう?
また、貧困率が低いと、捕捉率が低くなる傾向にあるのも気になります。捕捉率は「生活保護が必要な世帯に保護が行きわたっているか」を表す指標なので、本来はこの2つの指標は無相関になってもおかしくありません。それなのに、貧困率が低いと補足率が低くなる(貧困なのにそう見なされていない人が多くなる)のはなぜでしょうか。貧困率が低いことに安住して、捕捉率を高める自治体の努力がおろそかになるなら問題です。予算をかけて早急に改善すべきではないでしょうか。
さらにいえば、「どこに住んでいるか」によって捕捉率が異なるなら、所得だけでなく場所ですら「貧困を生む要因」になりかねません。「私は〇〇県だったから生活保護ももらえず貧しい人生を過ごす羽目になった」なんて、絶対にあってはならないことです。
数字を見えないままにしておくと、あるはずの現実も無いことになってしまいます。それが生活保護を巡る現状です。貧困の実態は3年に1回の国民生活基礎調査(厚生労働省)と、5年に1回の全国消費実態調査(総務省)のデータを加工しないと分からないのが現状です。こうした状況でよいのでしょうか? これは、行政を動かす政治家の仕事です。
有料会員限定記事を月3本まで閲覧できるなど、
有料会員の一部サービスを利用できます。
※こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。
※有料登録手続きをしない限り、無料で一部サービスを利用し続けられます。
この記事はシリーズ「データから“真実”を読み解くスキル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?