「子供を産む」と「仕事に就く」は矛盾しない?

 先進国での出生率と女性雇用をまとめたBrewster・Rindfuss論文(2000)やEngelhardt・Kögel・Prskawetz論文 (2004)では、OECD(経済協力開発機構)諸国の合計特殊出生率と女性の労働参加率は、1980年代以前は負の相関関係だったのに、80年代になってからは正の相関関係に転じた、と指摘しています。Engelhardtらの論文では、以下のような表にまとめています。

OECD21カ国における合計特殊出生率と女性の労働参加率の相関係数
OECD21カ国における合計特殊出生率と女性の労働参加率の相関係数
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 つまり、80年代前半以前は「女性が仕事に就いている割合が低い国は合計特殊出生率が高い」のに、80年代後半以降は「仕事に就いている割合が高い国は合計特殊出生率も高い」のです。

 もう少し詳細に見てみましょう。2005年9月に内閣府男女共同参画局で行われた少子化と男女共同参画に関する専門調査会で、1970年、1985年、2000年の15年おきにOECD24カ国(1人当たりGDPが1万ドル以上)における合計特殊出生率と女性の労働力率(15歳~64歳)がどのように変遷したのか、散布図が発表されています。

2000年になって女性の労働力率と合計特殊出生率は正の相関になった
2000年になって女性の労働力率と合計特殊出生率は正の相関になった
出典:「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」(データは2000年時)
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 1970年は女性の労働力率が高い国ほど合計特殊出生率は低く、負の相関関係(r=-0.39)を表していました。しかし85年には関係性が見えなくなり、2000年になると逆に女性の労働力率が高い国ほど合計特殊出生率も高く、正の相関関係(r=0.55)を表しています。

 80年代には2つの変数の負の関係を打ち消すような変化が、世界中で起きたようです。真っ先に思い浮かぶのが、60年代後半に起こったウーマンリブ運動です。79年には国連総会で女子差別撤廃条約が採決されました。

 ウーマンリブ運動との間に明確な因果関係があるとは言い切れませんが、80年代になって女性の働きやすい環境が整備されて、仕事と子育てが両立可能になった可能性は十分に考えられます。

 ちなみに日本はと言うと、2000年時点において、ほかのOECD23カ国と比べて相対的に「女性が仕事に就いている割合が低く、合計特殊出生率もかなり低い」に分類される位置につけています。

OECD諸国の中で日本は出生率が低く、女性の労働力率も低い
OECD諸国の中で日本は出生率が低く、女性の労働力率も低い
出典:「少子化と男女共同参画に関する専門調査会」(データは2000年時)
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