大阪市が廃止されるということを知らない人が多い?

 どういった内容であれ、数字で表現されると「そういうものか」と信じてしまいがちです。

 京都大学大学院の藤井聡教授は9月30日、自身のTwitterに「2015年の大阪でのアンケートで『都構想で大阪市はどうなるか?』と聞いて、廃止と『正解』したわずか8.7%の方々の9割が反対」と投稿しました。その後10月に、その話を含めた記事「『大阪都構想』賛成の方にこそ知ってほしい『二重行政の真実』」をネット媒体に掲載し、かなりシェアされていました。

 ただし、Twitterの投稿では、取り上げた「アンケート」の調査元や手法が示されていなかったためこの話を「真偽不明」で片付けていらっしゃる方も多いようです。ちなみにこのデータは「大阪都構想を巡る影響に関する有権者の理解度と投票判断の実態検証」論文における調査に基づいたもので、藤井氏はこの調査を基にした資料(データで振り返る「大阪ダブル選挙」)のキャプチャーをTwitterに投稿したのだと思います。なお、上記の論文は大阪都構想の認知度に迫ろうとした数少ない論文の1つではあります。

 それにしても、「都構想によって大阪市はどうなるか?」と聞いて、僅か8.7%しか「大阪市は廃止される」と「正解」していないと言われれば、「いまだに大阪都構想で大阪市が廃止されるということを知らない人が多いようだ」と思いがちです。しかし、さすがにそれは「無理筋」です。

 1つ目。藤井氏ご自身も10月の記事で記載された通り、引き合いに出されたデータは15年時点のものです。今回の「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」と何ら関係がありません。そもそも今回の住民投票の名称に「大阪市を廃止し」とある以上、今も90%以上の人がこのことを知らずにこれから投票をして、間違った選択をする恐れがあるとした記事には無理があるように思われます。

 2つ目。社会学者で谷岡学園理事長をされている谷岡一郎氏は『「社会調査」のウソ』(文春新書)で様々な新聞社の事例を紹介し、「初めに結論ありきである」と批判しています。その話と同じように、藤井氏が引き合いに出された調査は誘導質問が過ぎるのではないかと感じる点があります。「都構想で大阪市はどうなるか?」という質問では、以下のような選択肢があり、回答結果の内訳は次のようになっています。

「都構想で大阪市はどうなるか?」という質問に対する選択肢と回答数
「大阪都構想」が実現すると大阪市はどうなるか 度数 割合
政令指定都市のまま残る
79 25.5%
政令指定都市ではなくなるが、今のまま残る
20 6.5%
廃止されるが、大阪市と同じ力を持つ5つの特別区が設置される
111 35.8%
廃止されて消滅する
27 8.7%
その他
0 0.0%
分からない
73 23.5%
310 100.0%
出所:「大阪都構想を巡る影響に関する有権者の理解度と投票判断の実態検証」

 「廃止されて消滅する」が正解だということは分かりますが、「廃止されるが、大阪市と同じ力を持つ5つの特別区が設置される」という選択肢は「調査」の選択肢としては明らかにミスリードでしょう。この2つの違いが分からなければ大阪都構想を理解したとは言えないとするのは、調査としてはなじまないように思えます。「政策の厳密性」を正確に理解しているかを問いたいという気持ちは分からなくもないですが、入試問題を作っているわけじゃないんだから、と言いたくなります。

 3つ目。標本数が310というのは、少な過ぎではないでしょうか。さらに言えば、310回答のうち「住民投票結果」(15年)の内訳を見ると、賛成150、反対102、覚えていない4、投票していない54となっています。賛成の割合が58.6%、反対の割合が39.8%となるわけで、実際の住民投票の結果に比べて賛成を投じた人たちが多くなっています。少しばかり標本の偏りを感じます。

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