もっとも、世論調査が全く信用できない、ということでもありません。「これらは単なる調査であり、実態を表しているとは言えない」「自分の周囲は反対が多い。ABCもJX通信社も偏った調査をしている」といった声には反論せねばなりません。

どちらの世論調査が“正しい”のか?

 10月19日、日本経済新聞社とテレビ大阪の世論調査が発表され、都構想に賛成と答えた人が40%、反対と答えた人が41%、「どちらともいえない」「分からない」が計19%だったと分かりました。

 ほぼ同じ調査時期の調査と比較してみると、賛成が反対を7.5ポイント上回っているABCテレビとJX通信社の調査とかなり違って見えます。「どちらが“正しい”のか?」といった反応を示す人も、少なからずいるかもしれません。答えは「どちらも正しい」です。

 世論調査はあくまで「標本調査」であり、今回は「大阪市に住んでいる18歳以上の有権者」から何百人かを抽出した調査です。本来なら、選挙人名簿に登録された18歳以上の大阪市民約224万人全員に「賛成ですか反対ですか」と聞き、かつ必ず回答してもらう全数調査をすればよいのですが、費用がかかって仕方がないので人数を絞って調査を行います。ただし人数を絞り込む分、精度は落ちます。

 「どちらも正しい」と述べたのは、日本経済新聞社とテレビ大阪の世論調査も、ABCテレビとJX通信社の世論調査も、大阪市民を対象に標本を抽出し、その範囲内で聞いた調査だからです。全く同じ日に調査Aでは1000人、調査Bでも1000人に聞き、標本の抽出方法に作為性がなかったとしても、2つの調査に数%の違いは出ます。この誤差を「標本誤差(sampling error)」と呼びます。

 もちろん標本と全数の差分が少なくなればなるほど、標本誤差は小さくなります。もっとも、標本が2000を超えると、その数を3000や4000に増やしたところで誤差はあまり変わりません。

標本数と標本誤差の関係
標本数と標本誤差の関係
出所:内閣府「世論調査結果を読む際の注意」(n=回答者数)
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 ちなみに、日本経済新聞社とテレビ大阪の世論調査は標本数が512件、ABCテレビとJX通信社の世論調査(10月17~18日)は標本数が1044件と2倍の差があります。つまり前者は反対41%に対して±4.3%の誤差があるでしょうし、後者は反対40.4%に対して±3.0%の誤差があるでしょう。そう考えれば、反対派はだいたい全体の4割程度なんだな、という理解で十分です。

 一方、賛成の割合については誤差の範囲内でギリギリ重なっているとも言えますが、7.5ポイントとかなり差があるのも事実です。両者のデータの違いは、回答者に対する「聞き方」の違いによって、「賛成」と「どちらともいえない」「分からない」が入れ替わったのかな、と筆者は推察しています。

 例えば、内閣支持率を調べる日経新聞の調査では「内閣を支持しますか、しませんか」と質問し、回答が支持か不支持か不明確だった場合には「お気持ちに近いのはどちらですか」と重ねて聞きます。一方、共同通信や朝日新聞は2回目の質問はしません。その結果、内閣支持率が標準誤差を超えて大きく異なる傾向が表れる場合があります。

 「そんなことぐらいで傾向が変わるのか」と思われるかもしれません。ただ、実際そうなのです。今回の日本経済新聞社とテレビ大阪の世論調査がどのような聞き方をしているのか、その詳細が分からないので何とも言えませんが、恐らくはABCテレビとJX通信社の世論調査とはこうした違いがあるのだろうなと思っています。

 聞き方1つで大きな違いが生まれるので、同時点での違う媒体の世論調査比較はなるべく避け、同じ媒体の世論調査の時系列での変化を見た方がよいでしょう。その意味においてABCテレビとJX通信社が毎週調査を発表するのは理にかなっていると言えます。

 ちなみに、私自身もJX通信社の人間なので「身びいきするな」と叱られそうですが、本プロジェクトには関わっていませんのでその点はご了解ください。もっとも、個人的な心境としては「他のメディアももっと高い頻度で調査してよ」とは思っています。

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