全4244文字

最低賃金上昇の影響を分析できる実証研究環境を

 最低賃金を上げると「tカ月後」には貧困率が何%下降する、失業率が何%上昇する。このような数的仮説を導き出すには、統計的因果推論(変数間の因果関係をデータで明らかにする方法)の活用が欠かせません。

 本当に最低賃金が影響しているのか、実際は他の影響があるのか、それが分からなければ、私たちは雰囲気で政策を立案していることになります。

 しかし、それらは都道府県ごとに大きく違う労働環境の差異を細かく確認しながら分析しなければなりません。それに対して現在の研究環境は適切と言えるでしょうか?

 これまで論文で参照されてきた就業構造基本調査は集計済みのデータに限られていました。世帯単位や事業所単位といった集計する前の「個票」は、研究のためであっても閲覧できなかったのです。川口・森論文は回答者ごとの個票データの利用を特別に認められた点が珍しく、非常に有意義だと評価されています。

 研究者による効果のある実証研究実現のためには、統計データの活用は欠かせません。そうした背景もあって、18年4月、総務省統計局・独立行政法人統計センターは、和歌山県に個票データを提供する統計データ利活用センターを開設しました。

統計データ利活用センターのホームページ

 19年5月には改正統計法が施行され、情報保護を前提に、個票データの学術研究などへの利用が可能となりました。ようやく研究者が様々な公共政策の効果を、今までより気軽に、かつディープに分析できる基盤が整ってきたと言えます。

 今すぐには難しいかもしれませんが、20年代前半には最低賃金と貧困、失業の因果関係がある程度見えてくるのではないかと期待しています。