全4244文字

最低賃金上昇によるデメリットが起きない不思議

 最低賃金の議論では、前述した話とは別の議論がよく持ち出されます。最低賃金が上昇すると、利益が減って、経営難に陥る中小企業が現れ、倒産する可能性が高まる。これによって、失業率が高まり、結局労働者の不利益になるというものです。これは最低賃金上昇のデメリットとしてよく語られています。実際、韓国では最低賃金を2018年に16.4%、19年に10.9%上げた結果、失業率は上昇しリーマン・ショック期に近い4.4%まで悪化しました。

 前述の川口・森論文でも最低賃金上昇の負の側面として「10代男性労働者や中年既婚女性の雇用を少し減少させる」と分析しました。明坂・伊藤・大竹論文では最低賃金が上昇すると「10代男性労働者の就業率が低下し、50代以上労働者の雇用就業率は低下して、自営業・内職就業率が上昇する」としました。

 これを言い換えると、最低賃金が上がると、(1)一度も働いたことのない若い人たちの採用を雇用主側がちゅうちょする、(2)職に就いている50歳以上の人たちはリストラの対象となりやすく、そうなった場合、条件が悪くなっても就業形態を変えて働こうとする、ということになります。

 しかし現実には、日本の最低賃金は上昇しているのに、高卒の就職率は変化はありません。この連載の第5回「世界で始まった新“失業率”統計。日本は貢献できるか」でも少し触れましたが女性の「M字カーブ」も少しずつ改善しています。両論文の分析にあるようなデメリットが表れていないのです。

 当初立てた予測(forecast)とは違う結果が表れているのですが、いったい何が起きているのでしょうか?