幻の「景気の山」判定

 そもそも景気がよいのか悪いのかを判断するポイントは大きく3つあります。先に紹介した景気動向指数研究会による景気基準日付以外には、「月例経済報告」と「景気動向指数」による基調判断です。

 前者は様々な指標に基づき人間が判断し、後者はあらかじめ決められた指標から機械的に自動で判断されます。ちなみに、冒頭に紹介した景気動向指数研究会のもう1つの役割に、これらの基調判断に用いる指標の選定があります。

 景気基準日付が最終的に決定するまで2~4年を要します。どこが景気の山(ピーク)で、どこが景気の谷(ボトム)かが完全に見えた上で決定するので、それぐらいの時間がかかってしまうのです。次善の策として月例経済報告と景気動向指数で「上り調子か?」「下り調子か?」を判断している、と考えればよいでしょう。もっとも、最近では、両者が示す景気判断が食い違うことが度々起きており、話題になっています。

 では、景気動向指数研究会による景気基準日付は、遅い分だけ間違いなく精緻かと問われれば私は首をかしげます。17年6月15日に開催された第17回研究会において「疑惑の判定」が下されたからです。

 そもそも景気の山(ピーク)とは、その名前の通りで、翌月から景気後退が始まることを意味しています。「ヒストリカルDI」と呼ばれる数値が50%を下回る直前の月を「山の候補」とした上で、以下のような3つの緩やかなルールに照らして判定します。

景気後退を判定するための3つのルール
①波及度(経済活動の収縮が経済の大半の部門に波及) 目安として、ヒストリカルDIが0%近傍まで下降
②量的な変化(収縮の程度が過去同等に顕著) 目安として、CI一致指数が過去の参照すべき後退局面のうち下降が小さかった例と同等以上に下降
③拡張・後退期間 目安として、景気の山(谷)が、直前の景気の谷(山)から5カ月以上経過、かつ前の景気循環の山(谷)から 15カ月以上経過
第17回景気動向指数研究会資料1「第15循環の景気の谷以降の状況について」より作成

 17年6月に開催された第17回研究会では、14年3月が第16循環における「景気の山だったのではないか?」が議論されました。

 景気後退を示す上記3つのルールに従ってこのときのことを考えてみます。

 まず、第17回景気動向指数研究会が景気後退のルールに合致するとした②量的変化、③拡張・後退期間から見てみましょう。

 ②の量的変化(収縮の程度が過去同等に顕著)では「CI一致指数の下降率」を見ます。下のグラフにあるように、14年3月からの数値はマイナス6.0%(月平均下降率はマイナス0.27%)となっています。一見、下降の傾きが緩やかに見えますが、これは1980年以降、低下幅が最も小さかった第10循環の下降率(マイナス3.4%)よりも大きくなっています。よって、②はクリアしています。

過去の景気循環とCI一致指数の下降率
過去の景気循環とCI一致指数の下降率
第17回景気動向指数研究会資料2「CI一致指数の推移」より引用(数値は各期間の山から谷までの下降率、カッコ内は月平均下降率)
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 次に③の拡張・後退期間を見てみましょう。第16循環における「景気の山」とされた14年3月(グラフ右側にある2つの点線の左側)は、第15循環の景気の谷(12年11月)から数えて16カ月たっています。第15循環の景気の山(12年3月)からは24カ月です。ですから、③の条件である「直前の景気の谷(山)から5カ月以上経過、かつ前の景気循環の山(谷)から 15カ月以上経過」しているため、③もクリアしていることになります。

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