公的統計データなどを基に語られる“事実”は、うのみにしてよいのか? 一般に“常識“と思われていることは、本当に正しいのか? 気鋭のデータサイエンティストがそうした視点で統計データを分析・検証する。結論として示される数字だけではなく、その数字がどのように算出されたかに目を向けて、真実を明らかにしていく。

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 東京都を中心に新型コロナウイルスの感染が再拡大していた2020年7月30日。この日、景気の山と谷を議論する有識者による「景気動向指数研究会」は、「景気基準日付」として「18年10月を景気の暫定的な山に認定することが妥当」と発表しました。

景気は18年秋に後退していた

 この研究会は景気の転換点である山(ピーク)と谷(ボトム)となる景気基準日付を決めることが最大の仕事であり(最終的には、内閣府の経済社会総合研究所長が決定しますが)、この発表は極めて重い意味を持ちます。

 すなわち、12年11月を「谷」として始まった景気の第16循環は、暫定ではあるものの18年10年で拡大期間を終え、それ以降は後退期間にあるとなったのです。言い換えれば、18年10月にアベノミクス景気は事実上終了していたと判断されたのです。

 景気期間は71カ月となり、戦後最長記録である「いざなみ景気」(02年2月~08年2月)の73カ月に2カ月届きませんでした。

過去の景気の「山」と「谷」
過去の景気の「山」と「谷」
第19回景気動向指数研究会資料1「景気の山の暫定設定について CI一致指数」より引用
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 もっとも「18年10月」はあくまで暫定的な山であり、正式な月は、今から2~3年後に決まります。これまで暫定的に決まった月から「景気の山」が前後することは、ままありました。例えば第14循環の山については09年1月29日に「07年10月」と暫定値が発表されましたが、11年10月19日に「08年2月」と正式に発表されました。4カ月のズレです。従って、正式判定の内容によっては、第16循環が戦後最長記録となる可能性はまだ残されているとも言えます。

 発表を受けて西村康稔経済財政・再生相は記者会見で次のように述べました。

 今回、設定された「アベノミクス景気」の山と、政府の景気判断については違いが生じています。(略)景気動向指数と政府の景気判断に違いが生じていますので、今後こうした違いが生じないように、経済社会総合研究所では景気動向指数及び景気基準日付の判定手法の見直しについて検討を行っていくことを予定しています。

 政府はこれまでアベノミクスで景気拡大は続き、19年1月には景気拡大が戦後最長になったと考えていました。安倍晋三首相は19年1月30日の衆院本会議で「安倍政権の発足以来続く今の景気回復期は、今月で74カ月となり、戦後最長となった可能性が高くなっています」と語っていました。

 意地の悪い見方をすれば、親分の成果を台無しにするような研究会に西村大臣もご立腹なのです。今のところ①政府の景気判断が間違っている、②研究会の景気判断が間違っている、③両方間違っている、この3つの可能性があるのに、一方的に②であると決めつけるのは冷静さに欠けるとしか言いようがありません。

 そこで「景気は18年秋に後退」について、もう少し深掘りしていきましょう。

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