キャッシュレスの普及度を決済額で比べるべきか

 「キャッシュレス」が国の戦略として登場したのは「『日本再興戦略』改訂2014」でした。その当時は、オリンピックやパラリンピックで東京に来た外国人のためにも決済の利便性・効率化を向上しよう、程度しか掲げていませんでした。

 それが、いつの間にかいろんな人の期待を乗せて「未来投資戦略2017」では「今後10年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」というKPIを掲げるに至りました。曖昧な指標がKPI(重要業績評価指標)になったなぁ、と少し驚いています。野党の皆さんは何とも思わないのでしょうか。

 そもそも論ですが、キャッシュレスの浸透を測るのに「決済(額の)比率」を持ち出すこと自体に疑問を感じます。「日常における買い物回数にキャッシュレス決済が占める回数」を測るのが一番良いのではないでしょうか。決済額比率だと一部の富裕層の影響を強く受けてしまいます。少額でも現金を使わない世界を目指すなら、金額より回数をカウントした方がよいように思えるのですが......。

 ちなみに、皆さんは普段の生活ではキャッシュレスでしょうか? 私の場合、普段はクレジットカードとICカード「ICOCA」で買い物を済ませ、現金はほとんど使いません。カードに対応する店舗がもっと増えてほしいと思っています。

 しかし、普段の支払いが現金の人々にとって、キャッシュレスの恩恵は感じづらいのが実情です。

 私の場合、ICカードにチャージをし忘れて現金を出さざるを得ないとき、小銭をジャラジャラ数えること自体が面倒でいら立たしいと感じますが、普段からそういう生活をしている人は「それが当たり前」なので、「キャッシュレスは便利だよ」と説いても「今のままで十分」だと感じてしまうのです。キャッシュレスへのスイッチングコストが極めて高いと言えます。

 それなのに今のところは消費者のメリットよりも、店舗がキャッシュレスに対応しない理由ばかり注目されているのが現状です。

 「キャッシュレスだから買おう!」なんて、年に何回あるでしょうか。インフラばかり整備されても、使用する消費者が増えなければ効力は発揮されません。「インフラさえ整えば使われる」と考えるのは、相変わらずの箱物思想です。

 ちなみに私自身も、どうすればスイッチングコストを下げられるか分かりません。ディープな消費者インサイト(購買行動の奥底にある、ときには本人も意識していない本音)の理解が必要になるでしょう。既に弊社には民間のキャッシュレス系企業から消費者インサイトの相談があります。きっと5年後ぐらいに国から相談があるんだろうな、と半ば自虐的に考えています。

この記事はシリーズ「データから“真実”を読み解くスキル」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。